常盤武彦『ニューヨーク アウトドアコンサートの楽しみ』(産業編集センター)
ニューヨークを拠点に活躍しているフォトグラファーにしてジャズ・ライター常盤武彦さんの、2冊目のニューヨーク・ガイドブック。
ジャズでニューヨークといえば直ちに「ニューヨークの秋」を連想してしまう。
セントラルパークの木々が色づきはじめる雰囲気である。
が、実際には、ニューヨークは夏が最高らしい。
6月から8月にかけて、セントラルパークを中心に、数十の野外コンサートが行われるという。ジャズに限らず、R&B、ロック、クラシック、フォークなど多彩。セントラルパークの「サマーステージ」だけでも30を超えるらしい。
前著『ジャズでめぐるニューヨーク』でニューヨークのジャズスポット(インドア)のジャズ状況を伝えた常盤武彦さんが、本書では野外コンサートの雰囲気を写真と文章で伝えている。
驚くべきはその「安さ」で、多くは5ドル程度のカンパで楽しめるという。
音楽が市民生活に溶け込んでいるんだなあ。
聴衆や会場を撮った写真が多くて、これも面白い。
しかし、やっぱりミュージシャンの写真が楽しく飽きない。
写真から音が伝わってくるからで、ファラオ・サンダースやロリンズの近影がいいし、ラヴィ・コルトレーンの雰囲気もなかなか。
さらに、まだ聴いたことのないミュージシャンも聴いてみたくなる……この辺が写真の力だ。
ちなみに、おれのいちばんの気に入りは、前著のジョー・ザヴィヌルのポートレイト(ここに引用)は大きな写真を飾っておきたくなる傑作だ。おれは小さくコピーしてパソコンの待機画面に時々飾っているのである(あくまでもごく個人的利用)。
本書は「師」阿部克自氏に捧げられている。常盤氏のジャズフォトグラファーとしての成長SFの記録でもある。
それにしても、夏のニューヨーク、行ってみたくなるなあ。
巻末のコンサート・カレンダーや地図が充実しているだけになおさら。
(2010.5.21)
藤田雅矢『捨てるな、うまいタネ NEO』(WAVE文庫)藤田雅矢さんは『糞袋』や『蚤のサーカス』などの傑作があるSF作家だが、植物の研究者としての顔もある。
本書は研究者サイドの著書だが、その記述にはSF的なセンス・オブ・ワンダーがあふれている。
われわれは果物を食べる時、タネはたいてい取り除くか吐き出す。たまに間違ってミカンとかブドウのタネを呑み込むことがあるくらい。除去したタネはゴミとして捨てられる。
これはまことにもったいなく、また残酷なことであるらしい。
タネは生きており(胎児のようなもの)、土に埋めておけば芽を出し花を咲かせ果実を実らせる。実(実利)を求めずとも、観葉植物として楽しめるという。
その実例集。
普通のガーデニングの本と違うのは、種子の「生態」が擬人化的表現でじつに面白く描写されているところだ。
たとえば「発芽」のメカニズム。発芽はタネにとって「一世一代の大博打」だそうな。タネは自分では動けない。奇跡的に発芽できそうな場所を得ても、殻を破ると弱々しい存在だから、硬い殻を破るまで、環境を吟味して、よしこれなら……と決意して発芽する。それでも、志なかばで枯れたり踏みつぶされたり……。そのために果樹のタネの多くは、寒い季節を一度過ごしてから発芽する仕組みを備えている。
その他、興味深いエピソードが色々。
果物売り場を見る目が変わってくる。
(果物売り場や果樹園などに限ってだが)世界観を一変させられる驚きで、まさにセンス・オブ・ワンターである。
(2010.6.11)
桂米二『上方落語 十八番でございます』(日経プレミアシリーズ)米朝一門で文章のうまいのは(むろん米朝師匠は雲の上のレベルとして)、歌やん(先代歌之助)、文我師匠、そして米二師匠かな。ネットマガジンやプログラムなどに書かれた文章は多いが、これはネット連載からセレクトされた、米二師匠最初の著書である。
『百年目』から『たちぎれ線香』まで18席 六代目松鶴師匠がイラチであることはわかるが、待ち合わせだと30分前に来る、米二さんが45分前に行ったらもう待ってはって、1時間以上前に来てはったとか。これはイラチとかパンクチュアルとかではなく、一種の強迫観念によるのではないか。意外なエピソードである。 (2010.6.30)
北野勇作『メイド・ロード・リロード』(メディアワークス文庫)
北野勇作『恐怖』(角川ホラー文庫)『メイド・ロード・リロード』の帯には「いま話題の『年収150万円一家』に出てくる旦那さま<SF作家・北野勇作>の最新作!!」とある。
(2010.6.30)
渡辺恒夫『人はなぜ夢を見るのか』(化学同人 DOJIN選書)副題は「夢科学四千年の問いと答え」
(2010.6.30)
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