森川弘子『年収150万円一家』(メディアファクトリー)

 モリカワ(と呼び捨てみたいだが、昔からそう呼んでいるのでご容赦を)はイラストレーターで、ホンワカほのぼのムードの表紙画を数点知っている。写真もうまい。アジアやヨーロッパ旅行の写真を見せてもらったことがあるが、市場の人や食材などのスナップが面白かったのを覚えている。で、モリカワは某SF作家夫人でもある。
 そのモリカワが面白い本を出した。経産婦が処女出版というのも変だが、最初の出版である。
 
 森永卓郎の『年収300万円時代を生き抜く経済学』というのが出たのが5、6年前かな。
 むろんおれは読んでない。300万もあれば、おれの場合(浪費家家族さえいなければねえ)優雅な生活が送れるからである。
 だが……一家でその半額の150万となると尋常ではない。
 しかも帯には「でも、年に一度はヨーロッパ旅行」とある。
 これが、決して大げさな惹句でないことが本書を読めば(見れば)わかる。
 SF作家のダンナ、モリカワ、娘コハル、それにカメ一匹の清貧(でもないか)にして優雅な生活が描かれているのだが、決して無理している雰囲気がない。
 その秘密は、
・安売り食材(ただし調理には手間をかける)
・フリマと懸賞の利用(ただし趣味に合わないものには目もくれない)
・日常生活に楽しみを見出す(公園とか近所のイベントとか)
 などかな。
 この雰囲気を文章で説明するのは難しい。
 ぜひともご一読(一見)を。
 「イラスト+エッセイ」というよりも、ほとんどマンガに近いが、絵もさることながら、モリカワのネーム(文章)のうまさに驚いた。セリフや注釈など、短い文章が的確で、モリカワらしい絵とともに、大阪下町の生活感が見事に表現されている。
 この「日常」を離れた一家のパリ旅行編も面白い。
 ダンナを超える才能の開花か。
 ぜひとも続きというか、アジアや東欧旅行編とか、大阪のB級観光名所案内とか、もっと詳しいレシピ集とか、日常の時評的連載(どこかから声がかからんかな?)とか、色々やってほしいと思う。
 なお、ごく個人的な蛇足だが、おれはモリカワから手製のジャムをもらったことがある。甘みを抑えた品のある味で、播州龍野での老母との朝食に重宝した。モリカワ家の食生活が充実していることの傍証として付記する次第。
(2009.10.24)


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