大森望・日下三蔵編『超弦領域 年刊日本SF傑作選』(創元SF文庫)
『虚構機関』につづく年刊日本SF傑作選の2008年版。
『超弦領域』
巻頭の法月倫太郎『ノックス・マシン』には驚いた。
これは単純にいえば、ノックスの「探偵小説十戒」の第5項「中国人を登場させてはならない」の不自然さ……この謎をタイムトラベルによって解明する話、ということになる。歴史上のちょっとした謎を解明するタイムSFは幾つか思い浮かぶが、たいていがタイムスリップによる、ちょっと気のきいた歴史もの。これが『ノックス・マシン』においては……近未来に「文学」はすべて「数理文学解析」で解明し尽くされていて、若い学究は穴場みたいなノックスの探偵小説十戒の疑問点解析に挑む。で謎の「中国人」項を虚数に置き換えて複素空間に拡大、「No Chinaman変換」!によってミステリーの構造を探り出す。この論文が注目されて、中国の極秘国家プロジェクトでノックスが「十戒」を記述した日にタイムトラベルを試みることになるのだが……。
なんと手の込んだことをやるものよ! イーガン以降のSF手法の使い方も見事だしノックス十戒解釈にも唸らされた。
法月さんにはつい先日、啓文祝賀会でお目にかかったところだが、その前に、批評の鋭さ(「デカルトの密室」に関する瀬名さんとの対談/これについては別途書くつもり)にも驚いたところ。鬼才であるなあ。これから集中して過去の著作も読ませていただくことにする。
と、巻頭の1篇がこれだから、あとは推して知るべし。
傑作、秀作、異色作ゾロゾロ。
例によって大森望氏の選択がやや過激、日下氏の選択は歴史性を考慮しているような、このせめぎ合いも面白い。
日頃からまあまあ読んでいるつもりだったが、15編中9編はまったく知らなかった。円城塔作品は書き下ろし(ここでも! 傑作である!)だからしかたないけど。
そして巻末の伊藤計劃作品に「著者のことば」がないのが寂しい。
巻末の「2008年の日本SF界概況」も資料的価値が高い。
拙作も載ってますので、よろしく。
(2009.7.7)
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