立川談志『人生、成り行き 談志一代記』(新潮社)

 吉川潮氏のインタビューによる談志の一代記。少年時代から立川流の最近までを語っている。
 
 談志の芸についてはともかく、この記憶力は確かに凄い。
 本書に限らず、歌謡曲を語った『談志絶唱 昭和の歌謡曲』や映画を語った『談志映画噺』など、タイトルか歌詞や歌手名や俳優名、ほとんどソラで語っている気配だ……本書のあとがきで談志は「他の本は自分で書く」と書いているが、談話校正だと思う。
 その記憶力のすごさを前提に……
 小さんとの関係や政治家時代の話も面白いが、こちらの最大の関心は「落語家協会分裂騒動」である。これがほとんど最後の方の章だから、読んでいて待ち遠しくてしかたがない。
 で、この時談志はどう動いたか……。
 色々読んだ限り、事実関係では嘘はないと思う。ただ解釈は、やはり無理が感じられるなあ。吉川氏は立川流の「顧問」でもあるから、このあたり遠慮もあるだろうし。
 特に志ん朝が衣紋かけで殴りかかった点について「覚えてねえ」は、この記憶力からして不思議でならない。
 昭和史の謎は残ったままである。

 ついでながら、『談志映画噺』はそれなりに面白く、それは談志の映画の見方が芸人的なところにある。役者の演技や踊りについての評価は鋭いが、映像美とかテーマについての言及はほとんどない。噺家にはこんな風に見えるのか!という面白さだ。
(2008.11.16)


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