JALINET JALINET

  小松左京マガジン第24巻

 小松左京マガジン第24巻が充実している。
 今年の最終巻にふさわしく「日本沈没」特集の感がある。
 
 特に面白く読んだのは次の4記事。
@「映画『日本沈没』リメイクの裏物語」
 小松さんと樋口真嗣監督の対談で、今年のSF大会での対談記録。
 数々の撮影秘話が公開してあって面白い。
 冒頭の新幹線シーンを含め、前作へのオマージュが色々あったことがわかる。おれはリメイク判『日本沈没』の感想で、冒頭の富士山噴火の場面は間違いではないか?と書いたのだが、これは天城山の噴火であった。小野寺と玲子の出会い場面のリメイクだったわけだ。映画では駿河湾の向こうに富士山と見えたものだから。……ただ前作の海岸は下田、今回は沼津。天城がどう見えるかは再確認しないとわからない。
A「『日本沈没』をめぐる果てしなきトークショウ」
 これは新宿のロフトで行われた「日本沈没第二部」記念イベントの収録。この種のイベントにはあまり出てくる機会の少ない谷甲州さんが、いかにも彼らしい絶妙の話術を発揮している。
B「『日本沈没』と『復活の日』の海外での宣伝戦略とメディアの反応」
 これは下村健寿さんの23号の記事「映画化された小松左京作品が海外でどのように公開されてきたか」の続編である。前回のが「海外」作品についての論考だつたのにつづいて、今回はそのプロモーションに関するレポート。これもたいへん面白い。特にアメリカでの「マチネー」という上映方式についてはまったく知らなかった。貴重な報告である。
 以上が「沈没」関係。
C「因子分析で探る小松左京の作品世界」
 これは1980年に澤田芳郎氏と中西秀彦氏がコマ研で発表した論考の再収録。
 この原論文は知らなかった。
 そして四半世紀前にこんな先駆的な試みがあったとは……。
 当時、多変量解析を仕事で専門的に使っていたのは橋元淳一郎さんだった。
 ただ、当時はパソコンもまだ発展途上で、おれが実際にこの手法を使ったのは80年代後半になってから。会社でマーケティング部門に移された時に、「シャツの着心地」を調べるために試みた。
 おれなりの理解でいえば、多変量解析は「差のつけられないものにランク付けする方法」であり「その序列の理由を探し出す方法」である。
 なぜこれに「人気」があるのかとか「売れ筋」理由とか。
 で、その頃、とんでもない「文芸評論家」がいて、縦横2軸の表を作って独断で小説をそこに当てはめて点数をつけるという「文芸時評」をやった。多変量解析の結果のスタイルだけを借りて「因子」は勝手にふたつ作っているわけで、これは「でっち上げ」としかいえない代物。本当にこんなのがあったのである。バカじゃねえか。
 もっとも、広告プランナーなんてのが縦横に2因子、4象限の表を描いて「今のトレンドは……」なんてやるのも同類だけど。
 ということで、本当に多変量解析を文芸評論に利用できるやり方はないものかと、80年代末あたりに想像したことはあったのである。
 80年にこんな試みがあったとは。しかも、対象が小松御大であったことはまことに合点。作風がSFの可能性すべてに及んでいるから、その魅力がどこにあるのかというのは格好のテーマであったのだ。
 今頃になってだが、両氏の試みに敬意を表します。
(2006.10.31)


[SF HomePage] [目次] [戻る] [次へ]