滝川雅弘カルテット『Poor Butterfly』(CD)
滝川雅弘さんの3枚目のCDが出た。
会心作である。
『Poor Butterfly』 lyra-records LRJZ1012
滝川さんは、とつぜん急激にうまくなった時期がある、と昔から聴いている人はいう。それも複数の人から聞いた。
どうやら1990年代のはじめ、30歳を過ぎた頃らしい。
デフランコのスタイルをベースにモダン・クラを追求し始めた……つまりバッパーとしての決意を固めた頃であろうか。
ぼくが滝川さんのクラを聴くのはその数年後になる。
それから10年、滝川さんは、また大きな上昇期を迎えているようだ。
『Masahiro Takigawa』、『Autumn Leaves』につづく3枚目のCDには、それを実感させる快演が揃っている。
短い文章だが、平井常哉さんが見事にまとめられている。
「伝統的なビバップのテクスチャーに、ややディスコード風のフレーズがアナーキーなスリルを加える点など、デフランコを出発点としながらも氏独自の『乱調の美』をもったオリジナルな世界が着々と開けつつあり大きな感銘を受ける」(ライナーノーツ)
デフランコ・スタイルから、明らかにオリジナルな滝川スタイルが形成されつつあるのだが、その方向、かなり過激でもあり、スリリングである。
「乱調の美」とは、じつに的確な表現だと思う。
パーカーやコルトレーンの曲とともに、グッドマンでおなじみの曲も入っている。
「乱調の美」が典型的に表れているのが「クラリネット吹きが避けて通れない」名曲『Memories of you』だろう。
数あるグッドマンへのトリビュート曲の中でも、これはいちばん新しい。エディ・ダニエルズ『Benny Rides Again』の同曲よりもさらに大胆な新解釈。特にカデンツァは、このアルバムを締めくくるにふさわしい美しさだ。
ちなみに、ニューオリンズ・ラスカルズの河合良一さんも、最近よく「Memories of you」を吹く。こちらは世界でも類を見ない正統派「ニューオリンズ・スタイル」
グッドマンを挟んで両端に位置する名クラリネットふたりをライブで聴けるとは、大阪とはなんと恵まれた場所であることか……。
メンバーは滝川雅弘(cl)、八木隆幸(p)、中村尚美(b)、高野正明(ds)
八木さんは3枚ともの名コンビ。中村尚美さんはここ数年のレギュラー・ベースで、この人も現在急上昇中。ドラムの高野正明さんは、桑名バンドで叩いてたり和太鼓もこなす才人だが、「ぼくは森山威男さんに憧れてドラムを叩き出したんです(ご本人から聞いた)」というだけに、もう見事なサポートである。
大手CDショップに来週(7/11〜)あたりから並ぶはず。
問い合わせは
lyra-records または 滝川HPへ。
収録曲
1 Out of nowhere
2 The Song is you
3 All my life
4 Poor Butterfly
5 Moment's notice
6 The Dolphin
7 Billie's Bounce
8 Memories of you
(2005.7.10)