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『マッドサイエンティストの手帳』374

●姫路モノレール廃線ウォーク

 入梅の前に、姫路の「廃墟」と「再生」の現場を歩いてみることにした。
 姫路はおれにとってはいつも「工事中」の街である。
 小学時代、左腕骨折で姫路の医院に通っていた時期があり、駅前は大手前通(50メートル道路と呼ばれていた)の工事中であった。姫路で「ゴジラ」を観たのもこの頃。
 中学高校と6年間、姫路に通学したが、姫路城の大改修(昭和31〜39年)にすっぽり入る期間である。学校は城の東にあったが、素屋根?に覆われた姿しか記憶にない。
 そして姫路モノレール。
 工事は知っているが、昭和41年に完成した時は龍野を離れていて、時々帰省する時に姫路駅から眺めただけである。乗ったことなし。
 2年前から大阪〜龍野の往復生活になって、姫路を通る機会が増えた。
 今は姫路駅の高架工事で、構内と西側一帯が混沌としている。
 「落ち着いた町並み」の姫路なんて、おれは知らんぞ。
 ということで、このたび、北野勇作さん、八杉将司さんといっしょにカオス的世界を歩くことにした。
 なお、姫路モノレールについては「麗しの姫路モノレール」が素晴らしく充実しており、今回のウォークでも色々と参考にさせていただいた。

 北野さんは1962年生まれ。父親に連れられて乗り、空中を飛行するように移動して夢の国に到着したような記憶がおぼろげにあるという。
 八杉さんは1972年生まれで、モノレール運転休止の時はまだ2歳。
 乗ったことがあるのは北野さんだけである。
 世代が違うから、記憶も印象もバラバラ。
 駅の位置もはっきりしない。
 (なお、北野勇作『どーなつ』の冒頭に出てくるデパート屋上の遊園地は、明らかに山陽デパートがモデル。今回、作者に確認したが、やっぱりそうだった。姫路モノレールにも同じ懐かしさある。)
 山陽デパートの西側では何か工事が始まっていて、大将軍駅までの間の橋脚はそのうちなくなってしまいそうだ。

 で、数分歩けば大将軍駅。
 
 よくこんなに近い場所に駅を作ったものと思うが……レールの上をビルが移動するのではないかと想像させるSF的イメージは古びてないなあ。
 ビルの下、サウナやふぐ料理の店は営業している気配だが、利用するにはちと時間が早い。
 以前、ここと姫路駅の間に大きな病院があったはず。
 入院患者が暇つぶしに、モノレールの乗客数でバクチをやっていたという。
 「丁や」
 「よし、おれは半」
 「できました」
 「……あかん、誰も乗っとらんわ」
 こんな新聞記事を読んだ記憶がある。

 大将軍を過ぎて船場川沿いに歩くと、ここからは大きな道路で切れる以外、ほとんど昔のまま高架が連続して残っている。
 蔦がからみ、また山陽色素の煉瓦との対比がきれいだ。
  
 これに平行して南北に延びる飾磨線(産業道路)は大工事中で、先月には古い橋脚撤去のために日本最大のクレーンが来ていたらしい。
 動脈的幹線道路の脇にひっそりと延びる廃線という構図になりそうな。

 そして、終点の手柄山に近づいたあたりで、廃線の高架はぷっつりと切れる。
 
 この先は狭い田畑があり、その先は山陽中学校である。
 すぐ横のゲーセン前に、廃線の番兵のごとく「なんとかマン」が立っている。
 
 八杉「ずっと前からここにあるんですが、これ、何ですかね」
 北野「あ、これはシルバー仮面や」
 何でも、ミラーマンか何かの裏番組だったらしく、あまり人気がでなかったという。かめくん、さすがであるなあ。

 中学校の横を歩けば、すぐに手柄山。
 水族館の少し上にモノレール駅だった建物はひっそりとあった。
 
 蔦が濃い。
 夢の跡である。
 駅舎の上は展望台で、「始発駅」方向が見渡せる。
 
 断ち切られた高架の彼方に新幹線が通過中。
 龍がうねっているように見えないではない。
 月曜の昼間で、閑散とした山上公園を散歩。
 慰霊碑に近い所に野良猫が一匹。
 
 (これは林譲治さんのホームページではありません。)
 山頂でどうやって生活しているのか心配になったが、すぐ下に「楽園」というレストラン(本日は休業)があり、そこから食べ物を貰っているのだろうということになった。

 手柄山をだらだらと南に降りる。
 産業道路を渡り、山陽電車・手柄駅まで歩く。
 ここから線路沿いに姫路駅方向へ。
 山陽電車の高架が、JR山陽線の高架化に伴って、北へ移動、低くなった。
 旧高架は山陽線の高架のギリギリ下側に残されている。
 
 ここをトロッコでも走らせると面白そうだ。
 煉瓦造りの橋脚に風情がある。
 山電の廃線とモノレールの廃線が重なって見える。
 
 ふたつの廃線と交差して新幹線と山陽線と山陽電車の新高架が走る。
 ややこしいことである。
 姫新線は?
 まだ唯一「地面」を走っているのが姫新線で、これが通過するたびに踏切で遮断機がおりる。
 
 姫新線は「半地下」で山電高架の下をくぐる。
 姫路駅構内は「半分廃墟」である。
 山陽線の乗客はいったん地下道か陸橋で旧ホームを通らなければ新ホームへ行けない。
 姫路駅周辺、相変わらずの混沌。
 姫新線の高架が完成するのはいつの日か。
 おれにとっては、たぶん姫路は一生「工事中」のままになりそうである。

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