『マッドサイエンティストの手帳』271
●アトム誕生祝賀記念講演会
50年前の夢・50年後の夢…ロボットとの共生・協働
阪大フロンティア研究機構主催の講演/パネル
2003年4月7日は鉄腕アトムの誕生日である。
全国でいろんなイベントがあったようだが、いちばん興味深いのはこれ。
大阪、中之島公会堂3階ホールで4月7日午後に開かれた『アトム誕生祝賀記念講演会』。
阪大フロンティア研究機構が主催する講演会である。
プログラムは次のとおり。
挨拶 河田聡(大阪大学教授・阪大FRC機構長)
「アトムを夢みてきた日本人ロボット研究者たち」
浅田稔(大阪大学大学院工学研究科教授・ロボカップヒューマノイドプロジェクトリーダー)
「科学的側面からみたアトムの可能性」
川人光男(ATR人間情報研究所)
「ロボット形態論」
川崎和男(名古屋工大大学院芸術工学研究科教授)
「人工物との共生・協働」
立花隆(評論家)
パネルディスカッション
立花隆
川崎和男
石黒浩(大阪大学大学院工学研究科教授・ATRロボット研究所客員室長)
河田聡
浅田稔(司会)
……パネルには、ゲストとしてなんと小松左京氏も参加!
写真は左から、小松、浅田、河田、石黒、川崎、立花の各氏。
各講演の内容であるが……
極めて興味深い話が多かった。
ノートにメモが9ページ……が、これがきたない字で半分も読めない。何しろパワーポイントの画像を見ながらの速記だから。
最後のパネルディスカッションのために浅田先生が要約されたメモを紹介しよう。
(パワーポイントにその場で直接打たれたのだと思う。見事な要約である)
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浅田:ロボット研究者→シンボルとしてのアトム、ロボカップを核としたアトムの街構想
川人:ヒトの感覚運動能力と心を理解し創る、生殖、死、病気、情動、アトム計画(予算措置)
川崎:ロボット形態論、擬態、変態、化質(かたち)
立花:人工物との共生・協働、人工物学、逆工場、バイオロボットの危険性
河田:科学技術社会未来予測の不毛性、大学はもう無い? 夢を語ろう、危険な夢を
石黒:マーケットを創る、インフラ整備、徹底した作りこみ、異分野との融合、アンドロイド
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……浅田先生の話のコアは「アトムのシンボル性」で、研究者によってアトムのどこを見るかが違うこと、特に50年前後に生まれたロボット研究者の幼少期への影響を指摘された。
川人先生の「アトム計画」とは計算論的精神科学で「脳を創ることで脳を理解する、ヒトを理解する」計画である。
いちばん驚いたのは川崎和男先生の「ロボット形態論」である。長渕剛の放送禁止ソングから始まる異色の講演で、ロボットのデザインとはこう考えるのかと感嘆。ここには要約できないが、ゲーテの「形態学講座」から「可愛い機器としてのロボット」まで、自然・宇宙・超自然に関連づけての展開である。
立花隆氏の話は、ロボットを「人工物」と位置づけて、ヒトが進化の頂点にあるなら、ロボットは人工物の進化の頂点に立つかどうか。遺伝子におけるアシロマ会議がロボット分野でも必要という指摘があった。
河田機構長の話はロボットとは離れて、FRCが目指すものを話されたが、かなり過激、「夢を語らずに未来は生まれない」が「危険な夢」も語るべきというあたり拍手したくなる。
ついでながら、河田教授は、「ミック・ジャガー、桂米朝とならんで3大大好きのおひとり、小松左京さんが来られておりますので……」と小松さんを紹介。ミック・ジャガーをジャズメンに置き換えれば、おれとまったく同じではないか!
石黒浩先生の開発した「リプリーR1」を画像で初めて見たが、対話型ロボットとしては画期的なものではないか。これは読売新聞2003.4.4に紹介されている。
パメル・ディスカッションだが、これは、顔ぶれを見ただけで時間切れ必至、そして予想どおりそうなった。
浅田教授による議題提起はこんな内容。
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アトムの可能性:能力と形態、可愛らしさ、環境ロボテックスという人工物
ロボットに関する研究、産業、教育プロジェクトの計画:アトム計画、ロボカップを核とした街構想
未来社会の法整備:研究環境を守る法も含めて、科学の倫理、社会的認知
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ぼくとしては(特にSFファンとしては)、小松さんの発言が重要である。
「1970年頃に、アトムの誕生は30年延びるのではないか手塚さんに提言した」
「ただ、今のロボットの進歩を見ると、再修正が必要かもしれない」
つまり、アトムの誕生日の修正……1980年リメイク版のアニメ(カラー)でアトムの誕生が2030年に変わったのは、手塚さんが小松さんの助言を受け入れてなのである。
これはちょっと謎であったのだ。
浅田稔先生の締めくくりの言葉。
「今日(アトムの誕生日)が過ぎればメディアは急に冷めるだろうが、われわれは今日を誕生日としてロボットを育てていく」
夕方から別室で懇親会があり、お招きを受けた。
というよりも、タバコが吸えないと帰りかけた小松さんの連行役である。
京大の(というよりも小松研の)澤田芳郎さんも。
なんと乾杯の発声指名を(このわしがですよ)受けて慌てる。小松さん「やれやれ」
わしゃ、もうそんな年齢なのであるなあ……。河田機構長と挨拶したが、ぼくより若いのであった。
応用生物学の小林昭雄教授、任意の大気状態を再現できるカプセルを計画中とかで小松さん助言を求める。たとえば白亜紀の空気を呼吸できるとか。これも一種のタイムトラベルかなあ。
河田先生は挨拶から想像したとおり『題名のない番組』のファンで、何度か投稿したことがあるとか。ローリングストーンズを聴きに大阪ドームへも駆けつけられたとか。
阪大FRCの活動からは目が離せない雰囲気である。
あ、そうそう、小松さんの「4月7日はロボットの日にすべき」という提言に大きな拍手が沸いたことを付記しておかねばならない。
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