『マッドサイエンティストの手帳』256
●マッドサイエンティスト日記(2002年11月前半)
主な事件
・筒井康隆氏、紫綬褒章受章(2日)
・引っ越し騒動(8-10日)
・旧NULLの川崎恭子さんを訪ねる(12日)
2002年
11月1日(金)
終日穴蔵。
タイムマシン関係の「決算」業務である。
東大阪宇宙開発協同組合のメンバーであるおっちゃん連中だって、月末はたいへんなのである。人工衛星もタイムマシンも事情は同じ。
11月2日(土)
朝刊に筒井康隆氏の紫綬褒章受章のニュース。さっそくネットのサロンに祝辞。5時からのニュースを各局サーフィン状態でチェック。幾つかインタビューが流れるが、筒井さんいずれもワープロに向かっての和服姿。共同取材か代表取材のようである。NHKよりも民放の方がやや過激。これだとカットされた部分がいちばん面白そうだな。
……どうやら前から決まっていて、発表まで伏せてあったらしい。そういえば米朝師匠の紫綬褒章の時もそうだった。
早朝から祝杯ともいかず、夕方まで穴蔵。
夜、テレビで『リング』を見る。これ初見だが、こんなつまらん映画だったのか。
11月3日(日)
怖いホラーを見たらうなされて熟睡できないものだが、怖くないホラーだったものだから熟睡、定刻4時前に目が覚めた。
朝刊を取りに自宅へ行くと、ボンクラ息子その2がビデオで「リング」を見ている。ちょうど終わるところ。むろん呪いのビデオではないからそのまま放置。
5時過ぎから「日本の話芸」再放送で円楽の「死神」を見る。……まあまあ面白いが円生には到底及ばない。が、むろん「リング」より遙かに怖い。
午後、珍しくも本間祐さんが来穴蔵。……『超短編アンソロジー』(ちくま文庫)の編者はとてもマジメで、本日は「科学者、SFと『倫理』について」の雑談1時間である。たまにはこういう話もしなくては。
夕刻、専属料理人から電話、「東京から来た友人が泊まることになったから、夕食は勝手にそちらで食べるように」……へいへい。
コンビニで色々買ってきて、教育テレビで「ウイントン・マルサリス」の特集を見ながらビール。渡辺香津美氏がゲスト。……と、司会が鈴木光司氏であった。「リング」の作者はジャズ・ファンであったのか。なんだか昨夜から色々つながっているなあ。
11月4日(月)
世間は振替休日である。
終日穴蔵。
この秋いちばんの冷え込みというが、室温はずっと20℃である。膝が少し冷たくなる程度。わが穴蔵は恒温室か。
午後7時〜テレビで「子連れ狼」を見る。北大路欣也の陰鬱な雰囲気がなかなかいいではないか。(岡本喜八『ダイナマイトどんどん』ではこの暗さが鬱陶しかったが、今回、いい方に作用している)
しかし、こんな正統派チャンバラを午後7時から放映している感覚が理解できない。誰に見せようってんだ。女子供のものじゃないぜ。ご隠居向けには午後8時から「水戸黄門」があるわけだし。振替休日で初めてこれを見たボンクラサラリーマン諸兄はそう感じたのではなかろうか。ふだんは仕事か帰宅途上の時間だぜ。
11月5日(火)
ネクタイをしめての仕事の日。
うーん、これは絶対に政治とか文化の話ではなく、一民間人として商業ベースの話であるが、20年前から、中国とはもう絶対に仕事したくないと思ってきたおれの信念は、今回もたぶん正しい。結論は今週中に出る出あろう。
中国の「契約ホイホイ金はなし」というパターンに日本人は何度騙されたら気が済むのだろう。
20年経つと代替わりして、また同じ目にあわされるのかなあ。
と、具体例を詳述できないのがつらいが。
11月6日(水)
終日穴蔵。
夜中にボンクラ息子その1から電話。何かと思ったら、急に東京転勤の話が浮上して、どうしたものか迷っているという。専属料理人が「お父さんに相談しなさい」といったらしい。仕事の実態がわからないから急にいわれても助言のしようがない。「よく考えて決めるように」なんていっても意味ないではないか。……ま、親に頼る気がないところは救いである。わしゃ明日不在だから、夜中でも明け方でもいいから穴蔵に寄れと伝えるが、結局朝まで来訪の気配なし。
11月7日(木)
早朝の電車で播州龍野のタイムマシン格納庫に移動。
こちらは寒い。もう大阪の真冬並である。
キンタマ収縮の季節となりにけり。
相棒と打ち合わせ。……1件、中近東方面の話が浮上しているが、なにしろその昔「あるプラントが仕様通り動かないと揉めた揚げ句、韓国から派遣されていた技術者を銃殺にした」ことのある国である。まあ時代が変わっているとはいえ。そういえば、20年以上前だと、ソ連でも、トラブルが解決するまではと、パスポートを取り上げられてしまうことがザラだったというからなあ。
海外の大使館・領事館を海外保養所としか考えてない外務省の寄生虫とちがって、民間は体を張って仕事しているのである。ウジ虫連中、いらんのだよなあ。
夜帰宅。
専属料理人のいうには、ボンクラ息子その1、来週月曜朝には東京に出社ということになったという。また慌ただしいことだな。
11月8日(金)
またも朝からネクタイをしめての仕事。
昼までゴタゴタした揚げ句、中国関係の話は「一切中止/実質終了」と決定。
ほれ見ろ。中国相手に儲けたという例を、わしゃ60年近い人生で2例しか知らんのだ。それも(1例はブランド品の横流しみたいに)結果として日本人を騙して儲けたとしか思えないもの。WTOなんたらといっても相手にすべき国ではないのだ。
これは絶対に政治とか文化の話ではないけど。だいたい世間のアホがこれだけチューゴクチューゴクと囀っている時期にチューゴクへ行って何があるっちゅうのよ。
仕事中止である種の解放感を覚えるから不思議だ。
わしゃ今後の人生で、もう中国とは一切関わらんぞ。
と、これは宣言である。
「ネクタイ仕事」のひとつが片づいて、午後帰宅。
と、ボンクラ息子その1、明日、荷物の搬出とかで、自宅の方は大騒ぎである。
穴蔵に避難。と、こちらはパソコンが不調である。色々試みるが、おかしなことになる前にデータをCD−RWに避難させた方がいいようである。こちらは情報の移転。
自宅、穴蔵、ともに「引っ越し」で大変である。
夜、専属料理人とふたりで、ダンボール散乱のリビングで落ち着かない夕食。肝心のボンクラ息子その1は「送別会」とかで出かけてしまったらしい。
引っ越し先を見ると西武池袋線・石神井公園から徒歩3分のワンルーム。あれ、ここは作曲家・大澤徹訓さんの近くではなかったかな。……上京の時に泊めてもらうには狭そうだが、専属料理人、早くもその気になっている気配。布団をもう一組置けるかどうかなどといっておる。そのうち、家族、東西分断か。困ったものだ。
11月9日(土)
10時前に集合住宅関係の事務事項あり、玄関の管理事務所までいったら「さっき息子さんが荷物出しはりましたで」……もう行ってしまったのかと思ったら、本人は、午後から夜にかけて、送別会が2件、最終ののぞみで上京するという。……まあ、友人関係が大阪に集中しているから、上京には抵抗があるのだろうな。
結局「最後の晩餐」はなしで出ていく。
もと「わが書斎」だった見晴らしのいい部屋、午後には、早くもボンクラ息子その2が荷物の搬入を始めた。
ではボンクラ息子その2が今までいた部屋はというと、専属料理人が電子ピアノやパッチワーク材料を置き、「東京から帰ってきた時に寝る場所がいるし、友達が来たときに泊まってもらえるから」と、結局、おれが戻る場所は消滅してしまったようである。
パソコンやはり不調。リカバリー前提でデータ整理。
11月10日(日)
引っ越し騒動、一応終わったものの、部屋の片づけが残っている。
こちらはパソコンのリカバリー。なんだかんだで1日がかりとなる。
本日、本来ならニューオリンズ・ラスカルズの五月山教会コンサートの予定であった。池田の五月山山麓でトラッド・ジャズ。。そのあと、夕方から「かき峰」で牡蠣のフルコースで一杯。家族で行く予定で予約していたのが、引っ越し騒動でお流れである。予定していた「経費」を餞別として渡してやったのが「親心」である。
ひとり寂しくパソコンの再設定。
と、西宮の妹から電話。
「クール宅急便でマツバガニが届いたけど、ひとりだから食べられない。取りに来てくれませんか」というご案内である。
行く行くと返事して、阪急で夙川へ。北改札口で改札越しに紙袋を受け取る。……ちょうど梅田行きの電車が来たので、話もせずにそのまま飛び乗る。
重いカニだなと思ったら、カニの包みの下にサントリー・ロイヤルの限定瓶が入っている。持つべきものは下戸の親族であるなあ。
やれうれしや、ああしんどと、シートに座ると前から「あら堀さん」……なんと向かいの席にソリトン同人の児島康子さんが座っていた。西宮北口まで数分間雑談。カニの運搬人ですねんともいえず、ははは、困ったねどうも。来月には忘年会をやりましょうという話になる。
夜、蒸したカニを、ボンクラ息子その1抜き、親子3人でほじくりながら、シャブリを飲む。ラスカルズの五月山コンサートCDを流しつつ。
コンサートがCDに、牡蠣がカニに変わったが、まあいい日曜になった。約1名は荷物整理の最中であろうが。
11月11日(月)
終日穴蔵。
パソコン、リカバリーしたものの細部の設定や辞書など、こまかいところの修正が必要で時間がかかる。特に、海外とややこしいメール交渉の途中だったので、メール設定が不安。数名にテストメールを送り、返信をもらって動作確認。
11月12日(火)
早朝のニュースでは「前日より10℃高い」とかいうが、室温は20℃で、昨日より1℃高いだけ。室内は不変か。
メール正常に作動しており、朝から台湾と数回やりとり。
台湾では昔から英語のミドルネームをつける習慣があって、EVANSとかJETとかの昔なじみがいる。今回やりとりしている相手は李さんという女性で、「Jennifer Lee」という署名でメールが来る。ドキドキしてしまうなあ。
おれも一時期「holly」名を使ってきた。
これは「第三の男」でジョセフ・コットンの演じた三文作家 Holly Martins の名を借用したもの。アリダ・ヴァリの「Holly, what a silly name!」というセリフがたまらない。ただ最近はホリー・コールの影響で女性名ととられるようなのでやめることにした。
おれは男か女かわからない名前は大嫌いなのである。梓とか薫とかね。あくまでも特定の約1名だけど。
と、昼前に「前の公園まで来てんねん」と電話。奈良からクルマで右原彰子さん到着である。同じく旧NULLの同人であった川崎恭子さんを訪ねる日なのであった。
前に行ったのが6月17日であったから、もう5月も経っているのだ。近所なのだから、もっと頻繁に訪ねるべきだが。
相変わらず元気なので安心。3人で近くのファミレスまで歩いてランチ。
2時間半ほど雑談。老人ホームの実状など色々聞くが、暗くならない話し方なのでほっとする。
川崎さんは脚が弱いので、ド・セルビィ主義者……「机上の旅行者」とでもいうのか、細かい地図をたどるのが好きらしく、行く可能性もない地方都市のことをよく知っている。
11月13日(水)
終日穴蔵、昨日のつづき。
ジェニファーとの話はいい雰囲気で合意、おれは断固台湾支持である。中国は相手にせんぞ。
某社来穴蔵、こちらはベトナム関係。
夜は集合住宅の理事会。たいした議題はないものの、早く解放されたい業務だ。
11月14日(木)
終日穴蔵。
少しは仕事もするのであった。
11月15日(金)
定刻4時前に目が覚める。
どれくらい視聴者がいるのか知らないが、今、いちばん朝早いニュースは午前4時半から(関西では)読売テレビが流すニュースである。北朝鮮関係で何かないかと見ることが多いが、その前にある通販番組「ジャパネットたかた」が面白い。タタキ売りのテレビ版で、市販価格と別に変わらないのを、結構熱演。サクラ役でトミーズの雅が「安いわあー」を連発する。むろん買わないけど、トーク番組としてはなかなかのもの。これをちょっと見ようかと思ったら、とつぜん先日の「東大阪宇宙開発協同組合」の面々が「人工衛星を打ち上げるでぇ」とCMに登場。びっくりするなあ。自主CMではなく、広告機構とかの「やったろやないか関西」という、まあ穴埋めCMだけど。
早朝の電車で播州龍野へ作業服のまま移動。
タイムマシン格納庫へ。
午前中、タイムマシンの特殊梱包。午後、格納庫から引き出してクルマに搭載、大阪・南港の貨物倉庫まで息詰まる移送作業である。「恐怖の報酬」の気分だ。
湾岸線を走って、南港東の殺伐とした貨物倉庫密集地帯に入る。某秘密倉庫にクルマを横付け、なんとか無事到着した。
あとは無事に航空貨物として飛行機に搭載できるか……。
と、フォークリフトに乗ったグルーチョ・マルクスに似たヒゲのおっちゃん、「よっしゃ、そこへ置いといて」と受け取りにゴム印押、「あとはやっといたる」
もうちょっと重々しく扱ってほしいなあ。
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