HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』209

●マッドサイエンティスト日記(2001年8月後半)


主な事件
 ・ジャズ・ヴォーカルの上山高史さんが来阪(18日)
 ・台風11号通過(21〜22日)
 ・筒井康隆『わかもとの知恵』オフ(25日)
 ・The Day of Clalinet & Clalinet(25日)
 ・とつぜん「まぶだちの会」有志飲み会(27日)
 ・H2A打ち上げ成功!(29日)
 ・滝川雅弘さんが来た!(30日)

2001年

8月16日(木)
 DVDで「レッド・プラネット」を見た。なんじゃこれは……?????。世間の評判はどうだったのだろう。コメントする元気もない。

8月17日(金)
 某商社へ行く。雑談2時間、仕事はせず。
 夕方、近くの喫茶店で、テレビで「やまとなでしこ」というドラマの再放送やっているのを偶然1回分見る。松島菜々子(だったかな)という女優も初めて見た。1回分だけで断定するのはいかんかもしれないが、このドラマ、「白夜行」のへたくそなパクリじゃないのか? 世間の評判はどうだったのだろう。別に続けて見るほどのドラマじゃないけど。

8月18日(土)
 「小説すばる」の瀬名秀明「夏のロボット」100枚を読む。きれいにまとまったファンタジーである。取材データの生かし方もうまい。何よりも科学者の生活感を描写するのが抜群で、日本人作家でこれがやれる人は他にちょっと見当たらない。
 注目のジャズ・ヴォーカリスト上山高史さんが来阪されたので会うことになった。夕刻、専属料理人と近くの三井アーバンのロビーへ。上山高史さんと、ジャカルタ駐在時以来の友人という商社マンの田中さんに会う。ホテル裏手にある「やまさ輝」(サカナがまあうまい店である)でビール。
 ともに初対面だが、上山さんのヴォーカルはCD『TAKASHI KAMIYAMA “ALLEGIANCE”』で何度も聴いているし、田中さんとはほぼ同年ということもあって、ジャズの話や海外勤務の話など色々……。あわせてこちらの興味で「取材」もさせていただく。近日楽しいお知らせができると思う。
 8時過ぎにみんなでサントリー5へ移動。ニューオリンズ・ラスカルズの日で、休憩時間にドラムの木村さんを紹介。上山さんとはほぼ同世代で、早稲田〜慶応の仲だから、たちまち共通の知人の名が出てくる。
 片やアマチュア(ラスカルズは厳密にはプロではないからなあ)40年でこの秋結成40周年コンサートをやる。片や、天才少年歌手→プロ歌手→会社員36年。現在ともにプロ活動中である。
 off  off
 夜10時を過ぎて、またもゾロゾロ歩いてインタープレイ・ハチへ。
 山下洋輔さんが30年来出演の店とあっては、ご案内しないわけにはいかない。
 ここでのアマチュア・ライブは終わったばかりという。が、明利マスターから「筋のいいクラがいる」と聞かされていたクラリネットの鈴木孝紀さんが来ていて初対面。せっかくだからちょっと聴かせてくれと、オジンの強引さでリクエスト。「スイングしなけりゃ意味がない」と「メモリーズ・オブ・ユー」を吹いてくれた。クランポンを使っていて、音色はすごくクリア、指もすごくよく動く。音大での基礎があるから、まったく外れることがない。うーん、大阪でクラというのはしんどい道だが、がんばってほしい。
 あと、さらにリクエストして上山さんの「ブルームーン」を聴く。あ、考えてみると、上山さんの生を聴くのは今日がはじめてだったのだ。鈴木さんのクラ、歌伴も結構うまい。
 気がつけば23時を過ぎている。ゾロゾロと歩いて帰宅。楽しい夜であった。

8月19日(日)
 飲み過ぎ……水割りが4杯ほど多かったようである。
 よく考えると、昨日〜今日と、幕張でSF大会であったのだ。原稿を書くつもりで不参加だったのであるが……。
 終日ごろ寝。雑読。
 ネットで注文していた英和対訳「第三の男」(南雲堂)が届いたので熟読、グリーンの原シナリオと映画のスクリプトの相違まで全部記載されていて、疑問は色々と氷解。ついでに郡司貞則「滅びのチター師」も出してきて再読。……最終的に「謎」はラストシーンだけとなった。まあこれは映像の問題だけど。

8月20日(月)
 涼しい朝である。台風の予感か。まだ雨は降らないが。終日クーラー使用せず。さりとて仕事も出来ず。
 一昨日に来阪の上山高史さんの語り口がわが家に伝染してしまった。
 英語力が凄くて、まどろこしい日本語より英語のフレーズが先に出るという、日本人離れした語り口である。
 晩酌時に台風の予報。
 「おい、stormy watherになりそうやで」
 「without damage だといいけど」
などとしゃべりながらビールを飲んだのであった。

8月21日(火)
 台風接近で風がやや強いが雨は降らない。外出しなければいいものの、ちょっとつてがあって「大阪地下街株式会社」の取材に行くことになった。ホワイティ梅田など梅田地下街の中核部分などの管理会社で、その存在は知っていたが、第三セクター的な性格の会社だから、フリで訪ねていくわけにもいかない。午前中、想像以上に面白い話を聞ける。
 某記者と昼間地下街をいっしょに歩いて、午後は「堂島地下街株式会社」へ。ここで顧問の西山氏から話を聞く。入社してから40年、地下街一筋に仕事をしてきた人だけに、これはもう地下街に関する生き証人みたいな方である。うーん。知りすぎてしまうこ困ることも出てくるなあ。……新しい地下街に吹き抜け部分が多い理由も氷解。……どう塞ぐかがわが課題である。
 午後、その吹き抜け部分に行くと、暴風雨を予感させる雲行き。地下を歩いている間は忘れていた。これだから面白いのである。
 夕刻、台風11号は紀伊半島・串本あたりに上陸したらしい。しかし、動かないなあ……。ニュースを見ても、その後の進路予想をまったく報道しない。できないわけか。
 SUBで滝川雅弘4の日であるが、風雨強くなりそうで断念。こんな日の方が案外面白いのだがなあ。
 ま、しかし、滝川雅弘さんは終末に東京で聴く予定なのだ。
 が……結局は風雨たいしたことなし。
 梅雨空のごとく、か。

8月22日(水)
 朝3時に起きてしまった。少し雨が降っているが、風は弱く、台風なのかなんなのかわからんまま。
 台風は明け方まだ伊勢湾にも達していないらしい。
 大阪は明け方には雨もあがる。
 盆に行けなかったこともあって、早朝から専属料理人と播州龍野の実家へ。わしゃタイムマシンの調整という目的もあるんだけどね。
 台風関係なしで晴れ渡る。
 庭の百日紅が満開なのであった。
 off
 2階の「勉強部屋」からはこの花がよく見えた。夏休み最後の方になると、この花を見ながら宿題をやったものであった……と、ちょっと感傷的になるのであった。
 それではいかんので、夕刻、さっさと帰阪したのであった。
 と、夕刊にフレッド・ホイルの訃報が載っているのであった。86歳……わしより30歳年上か。母よりも上。しかしともかく、わが師のひとりである。

8月23日(木)
 ちょっと調べたいことあり、久しぶりに自転車で大阪商工会議所の図書館へ行く。
 帰路、ハチに寄る。ハチママがいて雑談1時間。先日ご案内した上山高史さんとは山下家の結婚式で会ったそうである。18日に会えなかったことを残念がることしきり。上山ライブをハチでやったらよろしいがな。
 晩酌、キリンの「秋味」が出たというので専属料理人が買ってきた。ビールの銘柄で唯一好きなのがこれ。あとは発砲酒でいい。「秋味」ロング缶3本飲んでしまう。……しかし、季節限定ビールは、出るのも消えるのも早すぎる。マッタケの頃には「秋味」はもう店頭にないのである。

8月24日(金)
 朝、たまたまテレビをつけたら、大麻で捕まった「いしだ壱成」のインタビュー画像が映る。あれ、どこかで見たような顔だなと思ったら、思い出した! 昔の今岡清に似ているのである。口元の締まりのなさとか間の抜けた感じとか。ようするにアホ面なのだが、こんなのによく「座長」が務まったものだ。あ、務まらなかったのか。片や大麻で逮捕、片方は変態性欲者の家政婦まがいに成り下がったわけで、考えてみると今岡という下等物件、20年前から今風のアホウ感覚を先取りしていたわけだ。それはそれでたいしたものだ。
 off
 念のために20年前の「女性セブン」!を出してきて確認。むむ、やっぱり似ている。記者にアホ丸出しのコメントをしているところまで似ているなあ。……この記事、コピーのほしい人には「個人名で密送」してあげますから堀晃までメールでご連絡を。大宅壮一文庫まで出向く必要はありません。

8月25日(土)
 朝のひかりで久しぶりに上京。
 昼過ぎに着く。定刻の午後2時まで時間があるので、銀座・山野楽器へ。デフランコ、ペプロフスキーなどジャズ・クラリネットCDを5枚買ってしまった。専属料理人に怒られるかなあ。ああ、今岡になりたい、なんちゃって。
 14時前に、銀座にあるアサヒネットのショールームへ。
 筒井康隆「わかもとの智恵」(金の星社)の出版記念をかねた、アサヒネット・筒井ヒロンの久しぶりのオフ。
 筒井ご一家、金の星社関係、それに筒井サロンおなじみメンバー30人ほど。画廊の雰囲気のある会場で楽しいパーティとなった。
 off
 「わかもとの智恵」はすでに7万部突破という。たいしたものだ。
 今度は「「わかもとの悪智恵」というのはどうであろうか……。
 午後5時頃まで、ビール、ワイン。焼酎「伊佐美」は一グラスだけ。これは、あとのライブを考えると、やっぱりやばいのである。
 北野勇作が谷口英治×滝川雅弘はぜひ聴きたいというので、いっしょにTUCへ。
 The Day of Clalinet & Clalinetを聴く。
 「かめくん」北野さんは残っている「青春18」を行使するとかで、23時頃に神田近くの路上で別れる。
 昔から馴染みの「国際商人宿」かずさや泊。

8月26日(日)
 朝のひかりで帰阪。来るときに子供が多かったが、復路はよくしゃべりよく喰うおばはん多し。騒がしいことよ。京都奈良方面への団体らしい。が、幸い疲れていて半分寝て帰阪。
 昼に帰宅したが、結局夕方までごろ寝雑読雑聴……なにしろ本をいただきCD買ってきたからなあ。

8月27日(月)
 夕方まで原稿を書いたのであった。
 夕刻、久しぶりに草上仁さん中心の「まぶだちの会」有志からお誘いがあって梅田へビールを飲みに行く。
 と、天羽孔明、草上仁、高井信、林譲治という、まあおなじみまメンバーに、なんと(わざわざではないと思うが)森岡浩之氏がいる。
 単に久しぶりの飲み会だと思っていたら、わしの「退職祝い」の意味があったらしい。ビアホールでとつぜん真ん中に座らされて記念品の贈呈を受ける。……むむむ、ありがたいことである。が、気分は「失業慰労会」である。
 早く失業状態から脱出しなきゃなあ。
 21時頃までバカ話。メインは高**の某犬楼様に対する失礼の段をいかに取り繕うかという、彌縫策ブレーンストーミング会議となった。むろんろくな知恵は出ない。*井*さんを泥沼に落とす悪知恵ばかり。
 off
 21時頃に解散したが、**信さん、無事に帰れただろうか。

8月28日(火)
 中村修二氏が前の日亜化学を訴えた事件に関する記事をいくつか読む。
 これは特許関係者にとっては今後数年間、研究会の中心的な話題になるだろう。
 ただ、背景がまだよくわからん。
 もう特許担当の仕事は終わったものの、やはり気になる。
 日亜が中村を秘密保持契約違反かなにかで、米国で提訴しているらしい。その内容がよくわからない。
 判例研究などでは、その事件単独で分析研究するわけだが、ぼくは業界の研究会でもこの点が不満だった。学問やっとるのじゃないぜ。提訴に至る「動機」部分は判決だけではわからない。
 企業にとっては、今回の事件は企業内発明の扱いについての最重要事件であろう。
 しかし、事件の面白さはなぜ訴えたかにある。日亜が先に提訴している事件がなぜ話題にならないのか。それがなければ今回の提訴はなかったのではないか。
 日米にまたがっているだけに錯綜しそうだなあ。
 ……と、こんなことを書くのは、わが「太陽風交点事件」も、「判決」だけでもまあ面白いのだが、事件の全体像はとらえられないからである。裁判の過程でいちばん面白いのは今岡清の承認尋問の速記録だし、控訴審における早川の準備書面も無茶苦茶に面白い(カスの今岡清とハゲ頭の三百代言・五十嵐敬喜に対する殺意が生涯消えることがない原因となった書面である)。しかも、訴訟資料だけでも、事件の「面白さ」の全体像はとらえられない。このへん、疲れてくるなあ。
 いずれにせよ、わが訴訟資料は、デジタル化するのが時間的経費的に無理とわかってきたので、近日、別の方法で配信できるよう、鋭意準備中である。
 ご期待ください。

8月29日(水)
 緊張の夏、ロケットの夏であった。
 H2Aの打ち上げ。朝からそわそわ。ほぼ終日、書斎に待機のつもり、が、燃料注入の配管接続の信号不備など?で13時打ち上げが3時間延期、16時になる。
 散髪に行こうかと思ったが、東急ハンズがバーゲン中だったことを思い出して江坂まで。パソコン用の蛍光灯スタンドを買ってくる。「特売品」特別にほしいものはなし。そそくさと帰宅。
 ついでに「穴蔵」のレイアウト変更。窓に向かっていたのを、書棚を背にした向きに変更。東向きの窓を向いていたのでは光量の変化が大きすぎておちつかないのである。CD一式も移して聴きながら仕事ができるように変更する。今まで「ながら」仕事はできなかったのだが、休憩も机に向かっての方式に切り替えである。要するに、起きている間はずっと机に向かう田中哲弥方式に切り替える。ずっと仕事しているかどうかは別である。
 16時、NHKニュースで打ち上げの中継あり、5分で中継終わり。まだ第2段ロケットが上昇中で、レーザ測距装置の分離まで40分ほどあるというのに、なんと歌謡コンサートを始めやがった。NHK、何考えとるのよ、ったくもう。テロップくらい流れるかと思っていたが、北島三郎や橋幸夫……歌謡曲なんて大嫌いになってしまった。森山威男さんの歌以外、もう歌謡曲なんて聞くまい歌うまいと決意する。
 NASDAの中継ウェブは繋がらない。相当混雑しているらしい。
 結局、いちばん早く写真とともに打ち上げ成功を伝えた(ぼくが知った)のは、わが宇宙作家クラブの速報板であった。苦労して現地入りしていた諸氏の活躍には敬服すると同時に、誇りたくもなる。
 まあともかくよかった……。
 いや、よかったという前に、感動的であった。写真で見るだけで感動的だから、現地が凄いのはわかる。が、現地へ行って病みつきになってしまうのが怖いのである。

8月30日(木)
 滝川雅弘さんがなんとわが「穴蔵」にやってきた!
 本日開設の「滝川雅弘応援ページ」をチェックしてもらうためである。
 off
 滝川さんは西長堀付近から自転車でやってきた。わしと同じく市内移動に自転車愛好者なのである。
 大阪市内の深夜〜早朝のグルメについて情報交換。意外な穴場も教えてもらう。
 (:滝川さんご贔屓の店は、環状線野田駅ガード下の「さぬきや」)

8月31日(金)
 雨上がりで涼しい。6時、大阪市内は21℃という報道だが室温は28℃である。それでも涼しい。
 久しぶりに散髪に行ったのだった。
 いつもは本町のビル地下だったが、面倒なので近所の、よそよりも500円安い店に鞍替えしたのだった。
 はじめての店だから、これでいいですかとか、途中で色々訊くのであった。
 鏡で横から見せたり後ろを確認したりするのであった。
 親切でいいのだが、わしゃ何年も鏡で自分の後頭部を見たことなかったのであった。
 ぎゃーっと叫びたくなったのであった。
 知らぬは自分だけだったのであった。
 敵は頂点からも来ていたのだった。
 世の中、知らないですむことは知らない方がいいのであった。
 秋を通り越して、いっきょにもう冬の気配を感じるのだった。


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