『マッドサイエンティストの手帳』717

●マッドサイエンティスト日記(2019年11月後半)


主な事件
 ・大阪→静岡→横浜(16日)
 ・D計画@世田谷文学館(17日)
 ・播州龍野いたりきたり


11月16日(土) ちょっと一杯@入船
 秋晴れである。
 7時頃に出て、久しぶりに静岡へ。東から来たボンクラ息子その1とその配偶者と合流、西の山麓にある寺へ。
  *
 セレモニーごちゃごちゃ。
 駅近くの「入船」に移動して宴会。
  *
 これ目当てに来たようなものだな。
 桜エビ天、しらすなど静岡メニューに続いて握り寿司。
 開運を飲んでいるので、半分はシャリ抜きとする。
 夕刻、ボンクラ息子その1にくっついて新横浜から地下鉄、東急で郊外住宅地へ。
 犬のために引っ越して、クルマもBMWから軽のSUVに替えている。初心者マークが貼ってあり、これは配偶者のためらしい。
 1室提供してくれるので、本日はこちら泊。
 ここだと「密室で変死」の心配がなく、ひとり外泊が許可されるのである。
 昼が遅めで重かったので、湯豆腐で軽く一杯、早寝。

11月17日(日) D計画@世田谷文学館
 朝、犬を連れて横浜の住宅地を散歩。
  *
 住居は緩斜面の中ほどにあるが、下の方に「雨水調整池」というのがある(初めて見たが、何かに使えないか。ミステリーですでにあるかな)。
 何箇所かに設けられているらしい。急速に宅地化が進んだからであろう。
 先日の台風19号の時も、別に貯水はなかったらしい。
 犬に見送られて、東急で渋谷へ。京王線に乗り換え、芦花公園の世田谷文学館へ。
 小松左京展「D計画」開催中である。
  *
 10月13日のオープニングに来る予定だったのが、台風襲来で変更、本日になった。
 小松左京展としては(神戸文学館、吹田博物館、大阪芸大(ハルカス)など色々あったが)過去最大スケールだろう。
 展示は、日本沈没がメンイテーマで、精神形成期、モリミノル時代、SF作家クラブ初期、色々な交流と多彩。
 小松左京ライブラリーが全面協力していて、箕面から運ばれた執筆机が中央に展示されている。
  *
 自筆のメモや原稿も多く、充実した展示だが……それでもこの巨人の全貌となると、まだまだあるなあ。
 学芸員のHさん、Kさんに挨拶。しばらく雑談の後、帰路につく。
 久しぶりに富士山を見る。
  *
 夕刻帰館。
 ちと疲れた。
 コンビニメニューで楽しき独酌。

11月18日(月) 穴蔵
 朝、洗濯をする。
 引き続き、近所の某医院へ行き、定期検診。異常なし。
 あとは穴蔵にて、一応机に向かうが、雑用あれやこれや。
 晴から曇天、夕刻に雨となる。
 夜、集合住宅の理事会と修繕委員会の合同会議。延々。
 気分は天気の移り変わりそのまま。鬱陶しいことである。
 22時近い時間から、やっと独酌。ほっ。
 明日は少しはいい日になるだろう。

11月19日(火) 穴蔵/ウロウロ
 朝2時間ほど集中して昨夜の議事録を作り、プリント、配布。関連する会社に資料などをメール。
 ひと仕事した気分になり、あとはボケーーーーッと過ごす。
 昼、散歩に出る。
 淀川堤は工事中なので、南東方向。中崎町を抜けて扇町公園へ。
  *
 秋の気配である。
 天神橋筋商店街に出て、「いぶきうどん」できつね。うまっ。
 中崎町商店街を抜け、「やまたつ」でトンカツ、サラダを購入。
 豊崎長屋の路地を通り、大阪七墓の残り少ないひとつ「南浜墓地」に参拝してから西へ。
 翁豆腐で木綿豆腐を購入して帰館。
 ということで、夜は色々並べてダラダラと独酌。
 楽しきかな独居老人生活。

11月20日(水) 穴蔵
 晴時々曇。急に寒くなった。
 昼の外気は14℃、室温20℃で、じっとしていると体が冷え、夕刻、今季はじめてエアコン(暖房/設定25℃)を稼働させる。
 終日穴蔵。少しは仕事もする……つもりが、ややこしい(主に集合住宅関係の)電話あり、そのたび中断。
 1度中断すると1時間は復帰できぬ。「ええかげんにさらせ」といいたくなるぜ、ったくもー。
 夕刻、専属料理人が帰ってきた。
 夜は黒半・わさび漬け、しらすパスタなど、静岡メニューでワイン。
 それなりに旨いのだが……
 楽しき独居生活は終わりを告げる。嗚呼。

11月21日(木) 穴蔵
 晴。午後、大阪市住宅供給公社来話。

 断腸亭のおっさんなら、この1行で終わる1日。
 おれもそうする……つもりであったが、アタマに来ること多く、読んでもわからんだろうけど書いておく。
 おれは集合住宅の理事長である。輪番制で、来春まではいたしかたなし。引き受けた以上は責任もある。
 近隣で工事があって、ちと迷惑を蒙る部屋があり、文句をいってきた。
 どう考えても苦情のいえる筋合いではない。
 ただ、迷惑はわからぬでもなく「好意で」色々理屈を考えて、しかるべき「公社」と電話交渉した。
 電話連絡が当事者、関連先含めて4ヶ所20数回。不在で伝言や折り返しなど、たいへん。おれの場合、仕事に関係ない電話があると、しばらく仕事にならない。延べ3日間くらいは仕事を犠牲にしたのではないか(11月はじめに「仕事にならん」と書いているのがそれ)。
 やっと本日14時に話し合いと決まっていたところに、午前、「当事者」ダンナは午後から仕事、ヨメは風邪で寝ているだと。
 理事長として、たいていのことには寛容な立場をとってきたが、さすがにがまんならない。
 それぞれが仕事を犠牲にして集まるのだから、出てこないなら、結論にいっさい異議をとなえるなと伝える。
 結果として、よくわからんおっさんが代理人として来た。いっさい発言なし。
 ただ「公社」はきわめて誠実に対応してくれた。ただ感謝申し上げる。
 理事長はあと半年。精神的に持たんな。アホ相手はやめて、適当に過ごすことにしよう。
 意味不明の記述多謝。
 以上、うっぷん晴らしである。

11月22日(金) 穴蔵
 陰。終日穴蔵にあり。
 以上、断腸亭調。
 昨日の気分が治まらず、陰気に過ごす。
 明日は少しはましな日になるだろう。

11月23日(土) 穴蔵
 快晴である。勤労感謝の日なのだが、仕事するのがいいのかさぼるべきか迷う。
 日頃働いて前金を納めている方々に感謝すべき日で、今日くらいは気合いを入れて働くべきだと思うのだが、気乗りしないままボケーーーーッと過ごす。
 もう年末が近い。
 読んだ本のことを書いていこうと思う。「執筆・編集・書店」の勤労への感謝である。

東京創元社編集部編『宙を数える』『時を歩く』(創元SF文庫)
 創元の文庫創刊60周年記念のオリジナル・アンソロジ−。
 創元SF短篇賞受賞の13氏による書き下ろしで、宇宙SFと時間SFの2冊が刊行された。
  *
 これは今年のベスト・アンソロジーと思う。
 「はじめに」に、各作品について、編集部による短いテーマ紹介(帯に書かれる紹介文である)があるが、これが見事にうまい。たとえば巻頭のオキシタケヒコ「平林君と魚の裔」は「ソロバン片手に銀河を旅する交易船、新たな異星種族との旅路」、宮西建礼「もしもぼくらが生まれていたら」は「地球に接近する隕石を逸らすための宇宙機計画に挑む高校生たち」……といった具合。これらを紹介していけば十分なのだが、ここはなるべく重ならないようにやってみよう。
『宙』は宇宙SF。
 オキシタケヒコ「平林君と魚の裔」……宇宙商人が出てくる点では「What We Want」の続編ともいえるが、設定・人物?・商談まるで別物。文体もまるっきり別物。平林君は異形の生物で恐ろしく凶暴。語り手は相当なぐうたらだが、なぜか難関の試験を突破して宇宙商人に採用される。それら一見無茶苦茶な設定がすべて関連し意味を持っている。それらが銀河の生態系にまで広がるところが凄い。要約不能だな。オキシさんの新境地。
 宮西建礼「もしもぼくらが生まれていたら」は天文好きの高校生チームが、この年に起こった「地球の危機」に立ち向かおうとする。カテゴリーは青春小説であり、結末がドラマティックでない点が爽やかで、じつにうまい。
 酉島伝法「默唱」……バリトンの吉田隆一氏とのコラボでもあるジャズSF。五感の特異な言語表現ということでは、『宿借りの星』の味覚につづいて、これは聴覚における実験である。相変わらずの言語創出力に驚く。
 宮澤伊織「ときときチャンネル#1【宇宙飲んでみた】」……いやはや。本当に宇宙を飲んでみせる。ちびちび飲みから最後には一気のみ。当然、飲まれたこちらも酩酊してしまう。
 高山羽根子「蜂蜜いりのハープ茶」は、恒星間宇宙船らしき世界の階層構造を想像させる設定。少女がちょっと口にした飲み物から、背後にある広大な宇宙をかいま見せて、これぞ短篇とうならせる。
 理山貞二「ディセロス」……これは恐るべき本格SF(作者はハードSFではないと断っているが、宇宙の構造が架空であるだけで、論理的にはハードSFではないか)。ディセロスは角砂糖くらいの直方体。この一面がマクスウェルの電磁方程式の先進波を、反対面が遅延波を受ける。立方体の中には9千万キロのカーボンナノチューブの導波管があり、ここに5分の「時差」が生じる。この立方体を装着したAI戦士は5分未来を知ることができる。いや、奪ったディセロスを組み合わせて10分、15分も可能になる。宇宙船内で凄絶な戦闘が繰り広げられることになるが、これがタイムパラドックスをいかに回避するのか……とんでもない設定で、よくこんなにこみ入った設定を書ききれるものと、ただ感嘆。
 以上6編、それぞれ見事に作風が異なる。
『時』は時間SF。宇宙SFよりもさらに解釈は自在である。
 松崎有理「未来への脱獄」は、たまたま自分は未来人と言い訳しためにムショにぶち込まれた男が、同室の未来人?と協力してタイムマシンを作ろうとする。設定の面白さは、われらがの日頃の拘束感を刑務所同然と感じるからであろう。
 空木春宵「終景累ヶ辻」……「はじめに」に「古典落語をモチーフにしたするSF幽霊譚」とある。「真景累ヶ淵」の語り口を思わせる見事な怪談調だが、大阪もんが読むと、「幽霊の辻」は小佐田はん作だし、皿屋敷は出てくるし、裏側で別も楽しみ方もできる、希有な怪談である。
 八島游舷「時は矢のように」……これはシンギュラリティSFの一種と見るべきか、AIと人間の進化スピード(ゼノンのパラドックスの克服?)を、人間の時間感覚を高めて対抗する。「新加速剤」のきわめて現代的解釈というべきか。人体の動きが何倍まで堪えられるかなど、極限描写がスリリングである。八島さんは「極限描写」がじつにうまい。
 石川宗生「ABC巡礼」……いわゆる聖地巡礼が、旅が進むにつれてエスカレートしていく描写が面白い。わが散歩コースでもやってみたくなる。
 久永実木彦「ぴぴぴ・ぴっぴぴ」……これは「タイムパトロール」の現代版というべきか。時間監視員はパラドックス回避のために過去への「声かけ」だけが許される。主人公は時間監視員だが非正規雇用。かれらの間で動画投稿サイトに現れる不思議な映像が話題になる。発想が抜群。
 高島雄哉「ゴーストキャンディカテゴリー」……VR時代の「引越し」がテーマだが、要約しにくい。「累ヶ淵」が出てくるし、数億年の時間経過があるし、それがちきんとした短篇になる不思議。
 門田充宏「Too Short Notice」は、死(それも不幸な事故死らしい)の直前に与えられた至福?の時間を描く。実時間は数秒らしいが、情報の消費量によっては数百年にも感じられるという。それをどう使い切るか。
 それぞれに巧緻な作品である。
 13編、傑作ぞろい。何よりも13人の個性がくっくりと出ているのがいい。

11月24日(日) 穴蔵/ウロウロ
 雨の予報だったが、薄曇りで暖かい。
 運動不足なので久しぶりに散歩に出る。
 ヨドバシ梅田北側の「リンクス」へ行ってみるが、人出多し。地下をちょっと見たが、おれが入れる店はなさそうな。
 チケットショップに寄って、さっさと帰館。
 夜はひさしぶりにチーズフォンジュで白ワインを少しばかり。
 結局、雨は降らず。
 播州龍野行きの明日に降るらしい。困ったものだ。

11月25日(月) 大阪←→播州龍野
 早朝の電車で播州龍野へ移動する。
 天気予報は雨だったが、本日も外れ。時々薄日が射す。
 9時前に龍野着、精力的に雑事を処理。
 昼前に揖西のヤマト運輸に荷物を運び込み、帰路、龍野公園へ。
 聚遠亭の紅葉を見る。
  *
 まあまあか。
 写真を撮っている近所のおっさんによれば、昨日は人が多くて写真どころではなかったとか。
 夕刻に近い午後に帰阪。
 迷惑な事件
 龍安寺の白壁に落書きしたとして、横浜市の会社員・大西達也(44)が逮捕された。
 油性ペンで「我青龍/感謝朱雀/待たせたな/白虎」……何じゃいな。
 「創作意欲がみなぎって、インスピレーションが湧いた」「将来はSF作家になりたい」だと。
 大西に告ぐ。創元SF短篇賞には応募してくるんじゃないぞ。ガソリンまかれたら大変だからな。

11月26日(火) 穴蔵/ウロウロ
 晴れたり曇ったり。
 終日静かに机に向かう……つもりであったが、なかなかそうもいかない。
 つまらん処理事項が発生、播州の某信用金庫で決済する必要があり、10時過ぎに出て、いちばん近い阪神尼崎まで行く。
 用事は10分もかからず。
 せっかく来たのだから大物あたりまでうろうろしようか迷うが、肌寒く、まっすぐ帰館する。
 午後は穴蔵にこもるが、一仕事した気分になり、ボケーーーーッと過ごす。
 困ったものだ。

11月27日(水) 穴蔵/ウロウロ
 陰。終日穴蔵にあり。
 ……のつもりであったが、午後、サプライ品を買いに梅田ヨドバシまで。
 ついでに北側に先日オープンした商業施設「LINKS」を見る。
 先週テレビで大騒ぎしていたようだが、ルクアやグラフロと変わり映えしない施設である。
 人も(平日でもあろうが)そう多くない。
 地下の酒場街が「昼飲み」奨励の雰囲気だが、こんなに人目のある場所で飲む気にはなれない。
  *
 梅田界隈で最近オープンしたのはフードコートみたいなのばっかりである。
 飲み食いは「見られて平気」という世代に変わったのだろうな。
 梅田で爺ィに残されているのは新梅田食道街だけか。
 と行ってみたら、こちらは脱税(はなたこ)である。
  *
 外人おらず、人は少ないような。歌やんやないけど、笑ろてしまいますなあ。
 おれに残された聖地は天五界隈だけのようである。
 まっすぐ帰って、一応机に向かう。

11月28日(木) 穴蔵
 陰。寒い日である。
 朝9時過ぎに中津郵便局を往復したら、久しぶりにキンタマの波動関数が収束してしまった。
 冬の到来である。
 終日穴蔵にこもる。半ボケ状態で、たちまち夕刻となる。
 オロモフル博士、今しばし、月末までお待ち下され。
 夜は専属料理人の並べた数皿で晩酌。
  *
 オニオングラタンで中本酒店推奨の格安バカ旨ワインがいけますなあ。

11月29日(金) 穴蔵/ウロウロ
 晴れた空。
 調べたいことができて、昼前に出て西長堀の中央図書館へ行く。
 1時間ほどで終わる。
 天気がいいので、木津川沿いに弁天町まで歩き、おなじみ「いちゃりば」で沖縄そば定食。
 午後に帰館。
 と、夕刻、専属料理人からメール。風邪で寝てるから夕食はひとりでお願いしますという(本人は適当にやるらしい)。
 ということで、食材を穴蔵に持ってきて、夜は楽しき独酌となる。
 テレビニュース見つつ。
 中曽根康弘が死去。101歳。死んだら皆偉大になるなあ。残るは(宗教とマスコミの)ふたりか。
 ニュースがつまらないのでBSに切り替えたら『ゲットバック』というのをやっていた。途中から見る。
 銀行強盗と娘の誘拐がからむB級アクションものだが……舞台がニューオリンズである。
 マルディグラを背景にカーチェイスをやるが、あの美しい並木道でカーアクションはいかんぜ。
 いろいろあって、わけのわからん日だ。

11月30日(土) 穴蔵/ウロウロ
 晴。月末の処理事項があって、午前、梅田のATMうろうろ。最近は土日も無料で使えるので便利である。
 都心で紅葉を見物。
  *
 箕面はたいへんな人出であろうなあ。専属料理人の体調もあり、今年は瀧安寺は失礼させていただく。
 午後は穴蔵にこもる。
 目の前の雑事(事務処理)やってると、肝心の仕事はさっぱり。
 夜は専属料理人が並べたオムレツ、サラダ、その他でワインを少しばかり。
 無為に過ごした11月が終わる。嗚呼。


[最新記事] [次回へ] [前回へ] [目次]

SF HomePage