HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』78

●如月東「落日の艦隊」

シミュレーション戦記批判序説

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 SF大会で架空戦記ファンの間でちょっとした話題になっていた本。如月東「落日の艦隊」(KKベストブック・1400円)を読んだ。
 タイトルから推察できるとおり、荒巻義雄「紺碧の艦隊」「旭日の艦隊」批判である。
 ぼくはこのシリーズ、1冊も読んでいないから、この批判のディテール部分が(特に軍事戦略論などは門外漢だから)正当なのかどうかは判断できない。
 ただ、長いシリーズの構成がいつどこでなぜ破綻したかを検証した第八章「誰のための小説か」はたいへん面白かった。
 3巻で終わる程度に考えていたシリーズが予想外の反響から、えんえんと続くことになり、別シリーズもスタートし、「虚構の自転車操業」に陥っていく。……笑ったのは「今や闇鍋状態」というギャグで、確かに次に何が出てくるかわからない状態の比喩としては秀逸である。著者には落語の素養もあるのか。
 さて、「読んでいない本については論評しない」という鉄則から「紺碧の艦隊」「旭日の艦隊」については論評できない。したがって、「落日の艦隊」とくに第八章を読んでの感想を述べれば、やっぱりシリーズ全体が結果として戦争のシミュレーションになったのではないか。
 3巻で終戦のはずが、戦火が拡大し、シリーズの主導権は軍部(出版社)に移り、いやなによりも戦争拡大を期待する読者の圧力が、さらに戦線を拡大し、つぎつぎと新兵器を繰り出さねばならなくなる……。これは戦争なのではないかしらん。

 また、物語が無限にもう手のつけられないまでに拡大し未完で終わるのが伝奇小説の本道であるから、架空戦記も伝奇小説のサブジャンルととらえることはできないだろうか。……いや、その検証のために今さら読む気にはなれないのだが。


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