HORI AKIRA JALINET

『マッドサイエンティストの手帳』115

●マッドサイエンティスト日記(1999年7月後半)

主な事件
 ・桂米朝独演会と鶏唐オフ
 ・ハイエナキャスター筑紫哲也の老醜を嗤う
 ・東芝はどうしようもない会社だな
 ・池宮彰一郎「島津奔る」は某賞間違いないだろう
 ・谷口英治、コンコード・ジャズフェスへの壮行ライブ
 ・宇宙作家クラブ、宇宙科学研究所へ行く

1999年

7月16日(金)
 雑用の多い日である。
 本日もクレイマー生活、夜帰宅、洗濯もの大量。ボンクラ息子とステーキ肉を買ってきて焼く。

7月17日(土)
 雑用片づかず、出社。15時帰宅。
 本日も「専属料理人」不在で、炊事洗濯をこなす。掃除は面倒でやらない。

7月18日(日)
 定刻、朝4時に目が覚めてしまう。
 朝5時から「日本の話芸」。本日、松之助師匠の「三十石」。30分の後半、ほとんど「舟歌」。お元気というか、声に張りがあるし、とても米朝師匠より年上とは見えない。その容貌、ますます渡辺淳一というポルノ作家に似てきた……あ、逆か。ポルノ作家が松之助師匠に似てきたのだ。むろん容貌。作風はとても及ぶところではない。どっちが……はいうまでもない。
 午後、サンケイホールへ。年2回の楽しみ、米朝独演会。
 桂団朝「月並丁稚」
 桂米朝「馬の尾」
 桂扇朝「狸の賽」
 桂米朝「算段の平兵衛」
 桂米朝「一文笛」
 なんといっても目玉は「算段の平兵衛」。最後は……「按摩の徳がこれをかぎつけて強請りにかかるという後日談があるが、ここまで」のパターン。これは後の「鶏唐オフ」で話題になったが、本来のバージョンは「メクラ蛇(平兵衛)に怖じず」のサゲ。やはりメクラが使いにくいらしい。
 独演会のあと、中津の北京料理店「菊華」に移動して「鶏唐オフ」の予定が……。
 会場の「菊華」が、午後5時直前「準備中」の下げ札があって人の気配なし。
 福海、半魚、西瓜頭の3名、呆然自失。しかたなく近くの「広島焼き」の店に入ってビールを注文したところで、その席から見える「菊華」の電飾看板が点灯。え、営業開始? なんだか七度狐にだまされたような気分である。
 そこへ天海(天羽孔明)、窓から見える路上ウロウロ。事情がよくわからんまま、結局、予定通り「菊華」へ移動して「鶏唐オフ」開始。
 ちなみに、この「鶏唐オフ」というのは、天羽孔明がどういう訳か「鶏の唐揚げ」に目がないという事情による。
 落語の話で大いに盛り上がったのだが、その絶頂部分で、斜め後ろの席からクレームがついた。
 矢野徹氏を柄悪くしたようなおっさん、「おい、あんたらだけの店やないんやで」という啖呵。
 もっともである。これはこちらが悪い。天海、西瓜頭という大音声派がいるから、どうしても「引き込まれて」しまうのである。
 が、このおっさん、パジャマ姿である。よく見ると、その家族3人、全員がパジャマなのである。息子らしい、そうおかしな顔でもない青年、これも見事にパジャマ。家風らしい。これじゃもてんぜ。……繰り返すが、矢野似おっさんの主張はもっともである。が、あんたら、この店を自宅のリビング感覚でいるんじゃないか?
 あんたに言われたくはないよ的気分になるが、まあ、中華料理店はこのおおらかさがいいのかなあ。

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 鶏唐オフ 半魚、西瓜頭、福海、天海。 左はパジャマの矢野似ご一家。

7月19日(月)
 「専属料理人」が帰宅して、やっと食生活正常化。
 雑用いっぱい。
 夕方、珍しく同期の6名でビール。海外や工場を飛び回っているのが多いから6名といえ、揃う機会はめったにない。
 江戸時代から続く酒店「みの源」で、立ち飲みでビールにするかと提案したら、なんと先日倒産という。前を通ると、コスモなんとかの「管理物件」になっているのが痛々しい。不動産投機による倒産という。思い出の多い酒屋なのだが……。

7月20日(火)
 海の日で休日。
 終日ゴロ寝して読書。

7月21日(火)
 夕刊によれば、昨夜、筑紫哲也が東芝のアフターサービスについてのHPについて「便所の落書き」発言したらしい。正確には、そういう発言を引用したらしい。それはまあ構わんが、HPの主が抗議している「電話の傍聴ではない」というのは、その通りだ。
 なんらかの釈明があるかと、眠い目をこすりながら深夜のニュースを見る。「便所」も「傍聴」についても発言なし。
 筑紫という人は何年ぶりかで見たのだが、ものすごく老いぼれた印象で、ボソボソと聞き取りにくいコメントをしているだけ。
 前に「TBSは死にました」といったはず。その死体にたかっているのだから、ハイエナキャスターである。耄碌寸前。晩節を汚さないためにも(とっくに汚しているようだけど)、さっさと隠居して、カラオケで「湯の町エレジー」でも歌ってりゃいいんだよ。
 ※ もっとも、TBSは死んでるとは思えない。乱交・痴漢・盗撮と元気いっぱい、ピンピンですがな。

7月22日(木)
 朝刊に江藤淳自殺の記事。へえっという程度。「成熟と喪失」が代表的だけど、家族のことばっかりだったものなあ。……不思議なもので、当時愛読した「第三の新人」、再読しようしても体質的に受けつけない(吉行淳之介は別格)。庄野潤三なんて過大評価じゃなかったのかなあ。
 読めないといえば、開高健がまったく読めなくなった。梁石日「夜を賭けて」を読んで以来かもしれないが、ベタベタしたリキュールみたいなレトリックが体質に合わなくなってしまったのだ。
 九州から東海まで梅雨明け。

7月23日(金)
 東芝の副社長、法務担当その他ががん首揃えて九州まで行って、結局ものわかれで帰ったらしい。
 東芝の対応は結局ヘタ打った。体質であろう。
 ぼくはあの渉外管理室の「暴言の主」はよくやっていると思う。忠実に職務を果たしている。ふつうの人間にはああはやれんから、プロである。「悪質なクレイマー」に対して立派に対応しているじゃないか。
 問題は「悪質なクレイマー」として渉外管理室に回されたシステムの問題だろう。AKKYさんという人もそこを問題にしている。
 ところが副社長の町井くん、渉外管理室に回したのは間違っていなかったと主張。「暴言の主」は「厳重注意」されたのだと。……可哀そうになあ。
 職務を忠実に果たして叱られたんじゃアタマくるわなあ。そして、本当に「渉外管理室」に回された処置が正しいのなら、あの「暴言の主」が「厳重注意」で済むというのもおかしな話だ。それがクビにもならず、「渉外管理室」のあり方もチェックしないというのだから、常日頃から「渉外管理室」は大活躍しているのであろう。
 ということは、日頃から会社が、ヤヤコシイ連中の攻撃にさらされている事情があるのだろう。つまり……
 東芝という会社は何か後ろ暗い事件を抱えているのではないか?
 ……と、一般消費者に想像させてしまうのである。
 むろん、今回の東芝のていたらくをHP(「誠意ある対応をした」と主張する東芝のホームページも含めて)や一般報道を見ての「想像」である。
 このような「想像」を「想像」できないボンクラ副社長を哀れむ。

7月24日(土)
 3軒ある「別荘」に行くかどうか迷うが、あまりの暑さに中止。「別荘」よりも自室でクーラーを回している方が涼しいからである。そのクーラー、東芝製である。故障したらどうしよう。
 昨夜来阪の兄から借りた、池宮彰一郎「島津奔る」を読む。「四十七人の刺客」以来の力作。秀吉の朝鮮出兵をこうも見事に説明したのは初めて。石田三成の描き方、家康の小心ぶりも面白く、これは秋の「某賞」本命と見る。

7月25日(日)
 天神祭の日、結局終日外出せずごろ寝。
 夕方、夕立と虹。天神祭りの船渡御のスタート時間のはずだが……。
 雨の後は涼しくなる。

7月26日(月)
 ボンクラ息子が夏休み入りして、家族全員、いぎたなく朝寝している日が増えた。ひとり寂しく朝食、出社。ゴロ寝している家族のために働く。SFでは喰えんからなあ ……。

7月27日(火)
 蒸し暑い中、終日、某倉庫で肉体労働。
 帰宅後、午後9時過ぎ、「専属料理人」とサントリー5へ。サウスサイドの出演日。クラリネットの岩田直樹氏が来ている。ついでにスイスから来たという「市川」なる金属クラリネットも。この人はちと悪のりである。

7月28日(水)
 雑用来客その他いっぱい。

7月29日(木)
 面白い話いっぱい。だが、書けないことばっかり。

7月30日(金)
 早朝のひかりに乗るが、家族連れ、ガキ、オバン連中、結構多い。これだから夏の出張は嫌なんだよ。
 東海、湘南とウロウロして、夕方東京着。
 神田岩本町のライブハウス「TUC」へ。8月6日にコンコード・ジャズフェスティバルに出演する、谷口英治、岸三晃トリオ、古閑みゆき(VO)グループの壮行ライブ。満員の盛況。浅草HUBでおなじみの今井さんとか、ネットのぶるなど、知った顔多数。平均年齢はかなり高い。
 ゲストにテナーの右近茂。何度か聴いているが、レスター・ヤング直系の「唄いに唄う」テナー。谷口英治との相性がとてもいい。……右近さんは、「ナニワ金融道」に出てくるどこかの社長みたいな風格だが、若干30歳ちょっと。谷口さんよりも少し若い。……小関みゆきさんは、昔(といってもぼくが住んでいる時期に)大阪で同じ町内会だった人である。
 CD3枚を買ってしまう。それぞれにいいが、ファースト・アルバム「BUT I LOVE YOU STILL」はバックが、ハンク・ジョーンズ、ジョージ・ムラーツ、ビリー・ハートのトリオである。

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 2ステージ目、コンコードで演奏するのと同じ曲を演奏、谷口さん、やや緊張気味である。あと、古閑みゆきさんに記念撮影をお願いする。
 かぶりつきの席にいたので、視界に制限があったが、谷口・右近のツーショット、現在使用中のデジカメ写真では、これは会心の一枚ではなかろうか。

 かぶりつきで撮った 『谷口英治と右近茂』
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7月31日(土)
 雲ひとつない炎天下、朝から横浜。1時間ほどの用件のあと、横浜線で淵野辺へ。ここから徒歩15分、「宇宙科学研究所」へ。年に一度の一般公開日。
 宇宙作家クラブの例会を兼ねて、結局20人以上が集合。
 午後1時半から4時半まで見学。
 「イオンロケット」「人工オーロラ」「はるかの成果」「赤外線観測」「X線天文衛星」その他、展示品の前に研究者が立っていて説明してくれるから、見るところは多いが、大方の興味ベスト3は、
 1 レールガン発射実験
 2 3次元展開アレイ
 3 「三浦折り」の折り方実演・指導
 ……という順だろうか。

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 夕方、みんなで淵野辺駅前の「魚々炉」で宴会。24人で座敷を占拠、西日の射す座敷で「もつ鍋」とは粋である。……が、この雰囲気、とても「宇宙に興味をもつクリエーター」の集まりには見えないなあ。

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 ついでに、やねこんで撮影できなかった、笹本祐一・森岡浩之の本年度星雲賞受賞コンビの記念撮影。……これからは、SF関係の賞は「宇宙作家クラブ」が独占しそうな予感がする。
 18時51分。月面探査機ルナプロスペクターが月の南極クレーターに突入する時間なので、秒読みしてみんなで乾杯(実際には1分遅れたようだけど)。
 新幹線の時間があり、一足先に失礼するる
 23時帰宅。1999年7の月、どうやら無事に過ぎそうである。

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