西岡研介『襲撃 中田カウスの1000日戦争』(朝日新聞出版)
“怪芸人”という言葉が登場したのは2年半前の春である。
週刊新潮の記事、「『吉本興業』は怪芸人『中田カウス』に潰される!」……インパクトがあったなあ。
少し前に出た週刊現代の「大崎副社長がヤクザに脅されている」という記事に対して、「創業家」林マサが手記(しゃべっただけで、絶対に本人が書いたのではないと思うけど)を発表したのである。
さあ、それから、現代(吉本現経営陣/カウス)と新潮(創業家/林マサ)の戦闘が始まった。
注目しましたねえ。
が、ともかくややこしい話が続々と出てきて、何がなんだかわからない。
カウスが「やるんなら早よやってちょうだい」といったとか……。
だが、事態はいっこうに進展しない。
と、2年経って、カウスが乗ってるベンツが「襲撃」されて、カウスはバットで殴られて負傷。
「どついたんは誰や!?」といいたくなるよなあ。
さらには前田五郎の「脅迫ハガキ」という珍事件も飛び出す。
どうなっとるのや。
で、そのご要望に応えようとしたのがこの本。
犯人は誰か……
結論をいえば未解決。
JR東日本のテロリスト組織に切り込んだ西岡研介にして、まだ真相には迫り切れない。それほど闇は深いのである。
本書は、中田カウスに密着取材した成果であり、一方、創業家・ヤクザ・府警の方はほとんど取材拒否である。
しかし刺激的なノンフィクションだ。
読みどころは2点。
・林正之助の「前科」を『広域暴力団山口組壊滅史』から明らかにしたこと。
・大阪府警四課のカウスに対する十数日に及ぶ「事情聴取」を(カウスの証言として)生々しく描いたこと。耐え抜いたカウスの胆力を描いたこと。カウスが「土下座」する件りは圧倒的だ。
怪芸人カウス、恐るべし。
この本が書店に並んだのは2009年11月7日頃。
その1週間ほど前(10月27日)に林マサは死去した。
そして、林マサ側に立ってカウスを攻撃し続けた週刊新潮の最新号、林マサの死について何も書いていない。どうしたことか。※
林マサ保有の株は、若ぼん・正樹に相続されるのか。
林マサを利用して「吉本乗っ取り」を企んだ連中は撤収するのか。
TOBにどう影響するのか。
西岡研介氏にはぜひとも続編を期待する。
(2009.11.8)
※コンビニでの立ち読みのため見落としていました。週刊新潮11月12日号の巻末グラビアページに密葬の写真あり。吉本関係や芸能人の参列はなかったとある。カウス事件への言及はなし。(2009.11.9)
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