福田和代『TOKYO BLACKOUT』(東京創元社)

 デビュー作『ヴィズ・ゼロ』で注目を集めた福田和代さんの第2作。
 
 『ヴィズ・ゼロ』は関空を「陸の孤島」とするアイデアで、その取材力と物語の構築力に驚かされ、これなら「近未来パニックにも挑戦」してくれるのではないかと期待したのだが、それは早くも、期待を遙かに上回るスケールで実現した。
 首都東京への送電線の鉄塔が爆破され、さらに別の送電経路の鉄塔にニトログリセリンを積んだヘリが衝突……真夏の東京は電力パニックに陥る。電力会社は「輪番停電」によって危機を乗り越えようとするが、その切り替え間際、ひとりのシステム・エンジニアが姿を消した……。
 テロによって東京の都市機能を破壊する……SF関係では田中光二『爆発の臨界』(タンカージャック)、山田正紀『虚栄の都市(三人の「馬」)』(テロリスト)、横山信義『東京地獄変』(核兵器)などが思い浮かぶがが、「東京大停電」は初めてであろう。
 電力会社の中央給電司令所、警察庁が設置した対策本部を中心に、子供が危篤状態にある刑事、東京タワーで夜景を見ていた恋人たち、都知事、武道館のライブ会場、地下鉄の乗客、そした渋谷で暴動を引き起こそうとする男たち……と、多視点で東京の長く暑い夜が時々刻々と描写されていくが、やがて「大停電」の背後に過去の「ある事件」が浮かび上がる……。
 じつは九州電力で某県広域の給電に携わっている知人(SFファン)がいて、だいぶ前にこの世界の業務について話を聞いたことがある。男っぽい世界だなあと驚き感心したものだが、その記憶があるだけに、『TOKYO BLACKOUT』では特に電力に関わる男たちが生き生きと描写されているのに感心した。……いや、おれが聞いたのは幾つかのエピソードだけ。例によって作者の徹底した取材力と、その成果を事件の進行にあわせて描写していく筆力には敬服する。
 「男もすなる冒険小説を……」と作者が「ミステリーズ」の巻頭エッセイに書かれている通り、これは広義には冒険小説。帯には「クライシス・ノヴェル」とある。「パニックSF」ではなくミステリーの色彩が濃い。いや、定義など考えるヒマもなく、一気に読まされる力作。
 あえて「近未来」と書いたのは、最初の方に1行だけ書いてある日付が巧妙で、これは2011年か12年あたりと解釈すればいいのかな。細部まで色々な仕掛けがあるということで。
(2008.11.11)


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