福田和代『ヴィズ・ゼロ』(青心社)
有力な新人のデビュー作である。
冒頭……凄惨な殺人場面で始まる。
東京で、学生アパートにいる友人を訪ねようとした「彼」は、友人がマサカリで額を割られる場面を目撃する。
そして「エスは死ね」という「冷静な声」を聞く。
それから13年後……。
香港から日本に向かうDC-9型機がハイジャックされる。
DC-9型機は台風が接近する関西国際空港に着陸するが、そのロビーには帰京しそこなったハイテク捜査官・甲斐がいた。彼はファントムという天才的クラッカーを追っていたのだが……。
管制官、対策本部を指揮するエリート警察官僚、犯人側……それぞれの視点から息詰まる攻防が時々刻々と描写されるが、やがてそれぞれが13年前の殺人事件に何らかのかたちで関っていたことがわかってくる。
それぞれの人物の配置と描き分け、犯人の要求と管制官の駆け引き、思いがけぬかたちで暴露される警察のスキャンダル情報、SATの出動やインターネットの使い方など、これはエンターテインメント・ノベルとしの骨格を見事に押さえた、模範的な秀作である。
ハイジャックの「主犯」が機内にいないとか、5000万ドルを受け取る方法など、アイデアも豊富だ。
そして、この「模範的秀作」を「傑作」にまで高めているのが、その舞台設定である。
台風によって交通がストップした関空は「孤島状態」となり、さらにある「工作」によって警察車両の到着も妨害される。
関空の構造や設備が徹底的に調べてあって、さまざまな道具立てがクライマックス場面まで巧妙に生かされている。
この関空描写が何よりも素晴らしく、関空を孤島化する着想を得たところに作者の勝利がある。
作者・福田和代さんは創作サポートセンターの出身、「ハードSF好きで工学部に進んだ」という凄い人だが、この取材力と筆力があれば、おそらく近未来パニックにも挑戦してくれそうだ。
じつは福田さんについては、(名前はあげてないが)わがHPで過去にちょっと触れている。どこでか……ま、リンクは見合わせておこう。
この才能に注目した青心社の青木治道さんの慧眼に敬意を表する。
今後の活躍を期待したします。