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  金原亭伯楽『小説・古今亭志ん朝 芸は命、恋も命』(本阿弥書店)

 
 『小説・落語協団騒動記』に続く伯楽の小説第2弾。
 タイトル通り、志ん朝の「芸と恋」を描く。
 67歳の作者にまことに失礼なのだが、小説家としての技量が前作(もきちんと書かれてたけど)よりもはるかに進歩しているのに驚く。
 会話のうまさや小説としての構成は見事なもの。
 全7章。
 各章が独立した短編として読める。
 それぞれ、テーマは「恋」「三木のり平/芝居」「家族/志ん生」「落語協会分裂騒動」「恋2」「馬生の死」「志ん朝の死」
 突出して面白いのが「三木のり平」で、これはおれが役者としての志ん朝を知らないからだろう(「若い季節」などのテレビと舞台はまったく別物/それはテレビで売れているが舞台ではダメな役者をのり平が罵倒する場面に表現されている)。のり平を座長とする芝居がどんなものだったのか、DVDがあれば確認したくなる。たぶん無理。
 つづいて「志ん生」「馬生」の章がいい。
 「恋」に関する話は、ちょっとおれの趣味ではないというか……艶福家であることはいいが、小説としては、舞台となる海岸風景や海外描写が観光案内みたいで平板なこと……いや、寄席の楽屋や劇場の舞台裏の描写にリアリティがあるものだから、その分、普通の場面が平凡に感じられるのだろう。
 奇しくも、酒井七馬も志ん朝も享年63歳。おれもそろそろということか……。
 しかし、ともかく、作者は60代半ばから……ふたりの享年を過ぎた年齢から、小説を書き始めてこのレベルというのは立派。おれもこちらを見習いたい。


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