『サウンド・オブ・サンダー』
ブラッドベリ『雷のような音』のかなり「忠実な」映画化作品。
SFファンがS派とF派に分かれて議論することが日本SFの創生期にあった。
サイエンス派とファンタジー派で、前者はアシモフ、クラークを好み、後者が支持する代表格がブラッドベリであった。
60年代半ば数年間のことで、議論のきっかけに便宜的に使われたにすぎない。好きな作家が誰かというのと同じ。SFファンはアシモフもクラークもブラッドベリもすべて面白く読んでいたわけで、やがてこれは表現方法の相違にすぎず、SFの本質的な区分でないことに気づく。
大きくはセンス・オブ・ワンダーでくくられるし、筒井康隆氏の名言「SFは法螺話である」(『東海道戦争』のあとがき)が代表的意見となる。
こんな古い話を思い出したのは、「サウンド・オブ・サンダー」の原作「雷のような音」(『太陽の黄金の林檎』1962)について、やっぱりそんな議論をした記憶があるからである。
この時間理論は「科学的に」正しいのか(架空の理論についてこれはへんなのだが)どうか……具体的には「人間も動物も、一日食わないくらいで死なないではないか」といった議論である。
素朴にSFを楽しんでいた時代であった。
ぼくは原作の理屈には少し無理があると思っていたが、その後、カオス理論が盛んになると、意外にもこれは「○○○○○効果」(映画ではこの言葉が伏せてあるから、一応伏せ字にする)を先取りしていたのではないかと思えてきた。
というか、○○○○○効果を応用すれば、より面白くなるのではないか。
映画化で注目したのはこの点であった。
結論からいえば、理論面は原作どおり。「最後の解決」(原作にはない)はさらに無理があって、SFファンからは相当つっこまれそうだ。
最初に「忠実な」映画化と書いたのはそのことである。タイムマシンの設定(特に現地へ行ってから)が原作に忠実すぎるのである。
で、忠実でないのは、生態系が激変するパニック映画にした点で、こちらは楽しめる。
近未来のシカゴの造形も面白いし、「時間波」(空間波にしか見えないが)というのもぼくは面白いと思った。
役者では時間旅行会社の社長役を演るベン・キングズレーがいい。
まったく偶然だろうが、東横インの社長によく似た印象で秀逸である。
ところで……先月試写を観てからだが、昨年、タイトルもそのものズバリ「○○○○○・エフェクト」という作品が公開されていたことに気づいた。これは観ていないのだが、紹介を読む限り、まさにカオス的時間理論をベースにしているようである。
これが先行したから「サウンド・オブ・サンダー」ではカオスの応用を避けたということなのだろうか。
遠慮することはなかったと思うがなあ。
(2006.3.31)