まえがき梅田地下街略図書庫の隅に積み上げてある本の中から、古めかしい一篇を取り出し、埃をはらって開示いたします。
「梅田地下オデッセイ」は1978年2月執筆、「SFマガジン」1978年5月号に掲載されました。その後、1981年2月発行の短編集『梅田地下オデッセイ』(ハヤカワ文庫JA126)に収録されました。
同書は、ハードSFの通例として初版のみで絶版となりましたが、この作品に関してはその後の「引き合い」が予想外に多く、宇宙SFを本領と自覚している作者にとっては驚きでもありました。特に大阪方面ではこの作品を覚えてくれている人は多いらしく、10年以上経った今も、たとえば梅田地下街でボヤ騒ぎがあるとコメントを求められることがあります。
現実の梅チカはその後大きく変貌し、特に執筆時点では、生きているうちに完成はしないだろうと予想していた「ダイヤモンド地下街」が完成し、作品の最後の場面に使用したあたりは、「北新地」駅名でもめております。さらにローカルな話になりますが、着想のポイントとなった地下鉄御堂筋線梅田駅南端の改札口東側、自動券売機裏側のコインロッカーのコーナーが、ホーム拡張工事にともなってなくなってしまいました。
その他もろもろの事情から、本作品がこのままのかたちで再度出ることはないと思い、ここに掲載いたします。
なお、短編集『梅田地下オデッセイ』はまれに古本屋に出ることがあります。
発見された場合、メールにて作者にお知らせいただけるとありがたく存じます。手持ちが2冊しかないという事情もありますが、巻末の、SF出版史上空前絶後といわれる石原藤夫氏による解説(図面入り100枚)が作品以上に価値があるからです。
1996年7月13日 堀 晃