『マッドサイエンティストの手帳』168
●堀晃『地球環』(ハルキ文庫)
久しぶりに文庫が出ました
このホームページでは自作の宣伝はあまりしてこなかったのですが、ハルキ文庫から久しぶりに文庫が出ました。版元のご好意に応えるためにも、ちょっと宣伝させていただきます。
ぼくの短編のなかにはふたつのシリーズがあります。
「遺跡調査員」シリーズ(結晶状の生命体とのコンビであることから、<トリニティ・シリーズ>と呼ばれることもあります)と、「情報サイボーグ」シリーズで、それぞれ約10篇。
どちらも宇宙空間を舞台にしたアイデア・ストーリーです。
ともに奇妙な天体や不思議な現象と遭遇するパターンがほとんど。
どう違うのかというと、前者が遺跡を調査しているうちに事件に遭遇する、後者は何かの目的を持って調査に行くという程度の違いです。
大好きな小林旭の映画でいえば、前者が「渡り鳥シリーズ」、後者が「流れ者シリーズ」に相当します。
<トリニティ・シリーズ>については、先年、『遺跡の声』(アスペクトノベルス/アスキー)としてまとめられました。
今回、日下三蔵さんが、すこし解釈を広げて「情報サイボーグ」シリーズをまとめてくれたのがこの『地球環』です。
さあ、宣伝。
全12篇。文庫初収録3篇を含む。いやあ、われながら凄いと思いますね。
「宇宙猿の手」
数あるわが短編のなかでも最高傑作と呼び声の高い「宇宙猿の手」。 これは凄い。 この作品は日本SF短編集がドイツで出たときの表題作になりました。ホラーの古典をベースにしておりますが、その怖さたるや、宇宙SFでしか味わえぬ恐ろしいもの。多元宇宙がエルゴード的であるというビジョンを打ち出しただけでもSF史に残る傑作。78年度「荒巻賞」受賞。荒巻義雄個人賞で新巻鮭一本が貰えるもの。これはうまかったですぜえ。ルイベで日本酒を飲み、マリネとホイル焼きでワインを飲み、鍋でビールを飲み、この年の正月はシャケをしゃぶり尽くしました。
「猫の空洞」
猫SF屈指の名作と呼び声の高い……と全部自分でいっておるわけですが……「猫の空洞」。これについては大出秀明(伊吹秀明)さんの「PARADOX 40」のネコSF特集に自分で解説を書きました。ネコSF特集号から依頼がくるのだから、やっぱり凄いのでありましょう。一部では「夏への扉」と並ぶ傑作といわれております。
「バビロニア・ウェーブ」短篇版
短篇版「バビロニア・ウェーブ」が収録されております。77年に発表されるや、石原藤夫博士を吃驚させ、小松の親っさんを仰天させて「虚無回廊」執筆の引き金となり、大野万紀氏にヴァーリィ「へびつかい座ホットライン」(当時未訳)よりアイデアは凄いと感嘆させ、カジシンに「本年度の最高傑作、後世に残ります」という速達を書かせ……しかし星雲賞の候補にもならなかった傑作。星雲賞はカジシンの「地球はプレイン・ヨーグルト」だった。嫌みだよなあ。ま、しかたないけど。まあしかし、今でも、「バビロニア・ウェーブ」は長篇版よりこっちの方がいいと誉めてくれる?人もいる傑作であります。
その他色々、全12篇。表題作「地球環」には、わが頭脳明晰老母の短歌が引用されております。
ハルキ文庫はただいまSFフェア。他にも色々と傑作が並んでおりますが、ま、ここはひとつ堀晃めをご贔屓に。
日下三蔵さんの解説が詳細を究めています。
お買い求めいただいて損はありません。
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