JALINET JALINET

  小松左京+谷甲州『日本沈没第二部』(小学館)

 おれの記憶では、「日本沈没」第二部を谷甲州氏が執筆するというアイデアを出したのは田中光二氏である。
 調べれば正確な日時も出せるが、もう15年ほど前と思う。田中さんが大阪に来て、プラザホテル1階、おなじみ「マルコポーロ」で小松・田中・かんべ・おれの4人で飲んでいた席だった。
 何かのはずみに田中さんが「小松さん、沈没の続きは誰か若手に書かせるって手があるんじゃないですか。谷甲州あたりなら書けると思いますが」
 おれは、あ、その手があるかと感心した。
 その時は小松さんもだいぶ酔っていて、よっしゃという返事はなく、「一部以降」の国際情勢の変化などの話題が延々とつづいたのであった。
 今回、何人かのチームでプロジェクトが組まれたようで、それが田中さんの提案の結果かどうかは知らないが、以前にそんな話があったということは確かである。
 
 そしてついに完成した『日本沈没第二部』……これはどう読んでも谷甲州作品であり、そして谷甲州氏の代表作のひとつとなるだろう。
 プロジェクトがどのような形で進んでいたのかはまったく知らない。「ちきゅう」の見学に同行できる機会はあったのだが、都合がつかなかった。
 したがって、チームでの取材や議論がどのように作品に反映しているのかは判断できないのだが、やはりこれは印象として90%以上谷甲州作品であり、作者の資質がいいかたちで絞り出された、まさに渾身の作品といえる。
 特に、パプアニューギニアで農業指導にあたる篠原の生活描写……これはあとの物語展開とはあまり関係がないのだが、世界に散らばった日本人の生活のうちの「農業」(つまり「食」)から始められているのがいい。しかも、ここには谷さんの海外青年協力隊(ネパール)、国際協力事業団(インドネシア)体験が初めてストレートに反映されているのではないか。
 つぎに、日本海……というか列島跡の海域で展開される「戦闘」。これはさすがに架空戦記で鍛えられた筆力。しかも海中シーン、確かに日本海側が「上」にくるわけで、小松市が出てくるあたりの迫力はさすがだ。
 そして、一番甲州カラーの濃厚なのがカザフスタンから中国への逃亡行で、この部分だけでも長編冒険小説1冊分の読後感がある。
 全体の軸となるのは「地球シミュレータ」を中心とする謀略……といっていいのかな。優れたポリティカル・フィクションである。
 世界中に散った日本人の点景を集めるのではなく、大きくは4つの側面を緊迫した物語として同時進行させる方法で、それぞれの局面に谷甲州氏らしい資質が発揮されている。
 ともかく千枚を超える大作、(ちょっとせっぱ詰まった時であったにもかかわらず/だからこそか)一気に読まされてしまった。
 「第一部」の登場人物の「その後」もいいし、何よりも「終章の最終節」……SFの定型でもあるが、これはやっぱりジワがくる。
 なお、おれは「第二部」構想のベースは「ニッポン国解散論」と思っていたのだが、『SF魂』を読むと、「サブナショナルの国『日本』」という論文なのだという。こちらは読んでないのでコメントできないが、前後で「農業」にも触れてあって、ニューギニア部分はやはり小松構想なのかなと想像する。
 その他……過去の小松論文を参照しなければならぬこと多く、このへんで。
 ともかく谷甲州氏がまぎれもなく小松左京の一面(それも本質的な部分)を継承する作家であることを示した力作であり傑作である。
(2006.7.29)


[SF HomePage] [目次] [戻る] [次へ]