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  笹倉明『復権 池永正明、35年間の沈黙の真相』(文芸春秋)

 
 西鉄の天才投手・池永の球界からの「永久追放」に対する復権運動を描くノンフィクション。筆者はその運動の中心人物である。
 笹倉明氏はぼくと同じ中学・高校の出身で、たぶんぼくが高校時代に中学クラスにいてはったはず。未だ面識はないのだが。
 池永に限らず、なんだかのめり込みやすい性格の人なんだなあ。
 この本、ものすごく面白く、池永が35年間沈黙を貫いた事情はよくわかるし、感動的だ。
 が、笹倉氏がなぜ池永にここまでのめり込んだのか、これはよくわからないまま。
 何かを、誰かを、好きになるというのは、こういうことなんだろうな。
 池永以外の人物はほとんどがイニシャルで記述してあるが、ま、大部分は思い出せる。
 ただ、どうしてもわからない(かつ、どうしても知りたい)のが、復権運動に「圧力」をかけてきたと思われる「球界のドンといわれる」(113P)Hの本名である。
 川上哲治が賛意を示したあとである。誰だ。
 この圧力、要するにこの事件が再燃すれば困る人間が球界からゾロゾロ出てくるから……らしい。
 知りたいところだ。
 おれは大学時代のある時期、某スポーツ新聞社でアルバイトしていた。
 1966年の夏、ナイター期間、夕方から午後11時までである。
 当時、関西には、阪神・阪急・南海・近鉄と4球団あった。
 仕事は主に電話番。(時々、カメラマンの助手として球場についていくことがあり、これは面白く楽しい仕事だったが)
 ナイターの途中経過を問い合せにこたえる電話番である。
 黒板に書き出されるナイターの途中経過を、電話があれば読み上げる。
 ピークは午後8時〜終了まで。
 3台の電話が鳴りっぱなしになる。
 ある日のこと……。
 デスクのひとりが、問い合わせ電話について「どのチームのファンか訊いてみろ」と言い出した。一種のマーケティング・リサーチのつもりだったのだろう。
 やりだして驚いたのが、相手のとまどいであった。
「○○と××はどないなってます?」
「○回裏、○対△で○○リードです。……ところで、どちらのチームを応援されてますか?」
「えっ……あ、どっちでもよろしいねん」
 こんな応答が代表的。
 ともかく、相手が戸惑ってしまうのである。
 1時間ほど続けているうちに、わりと親しくしてくれた記者の某さんが助言してくれた。
「適当なとこで、そんな調査、やめとけ。9割は野球賭博やってるやつやねん」
 うーん。そうであったか。
 おれは、ナイター中継のない試合を気にしているファンを想定したいたのだが、確かにこの記者の意見は説得力があった。
 池永の関わる事件はこの4年後である。
 あの記者の某さん、この事件についてどう思いはったのだろうか。
 その後、野球賭博は……落語家(というより漫談家)や漫才師(の片方の兄さん)とかコント(のひとり)まで巻き込んで続く。
 青田事件で「ゲタ屋のおっさん」が登場したり。
 たぶん、今も、実状はさほど変わっていないのだろうな。
 『復権 池永正明、35年間の沈黙の真相』では、賭博の実態を知る人物がちらっと登場するが、(本書のテーマから)深く追求されていない。が、恐ろしく迫力がある。
 このあたり、まだまだ大きな鉱脈が横たわっている感じがするなあ。

(2005.7.31)


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