『ショートショート大賞』
第4回『ショートショート大賞』選評
大阪シナリオ学校主宰の第4回ショートショート大賞選評
出題は「風」
受賞作 吉岡真由「最後の風」
佳作 田畑暁生「風嫌い」
全応募作(166篇)から一次選考で選ばれたベスト18についてコメントします。
今回、「風」という出題が多様なイメージでとらえられることもあってか、バラエティ豊かな応募作が集まりました。(前回の「時計」がタイムマシンに集中したのとは対称的です)
選考する立場としても、最初の読者として楽しませていただきました。
「風」を多様にとらえていて、発想も豊かです。
反面、「そつなくまとめた」上手い作品が少なく、これも前回と対称的です。
よくいえばフレッシュ、悪くいえば未熟。
ショートショートは、アイデアが勝負ですから、これは決して悪いことではありません。 ちょっとした手直しで数段良くなる作品が目立ちました。これらはテクニックの問題ですから、まだまだ向上の余地があるということです。
それだけに今後を期待させる作品が多くありました。
「ミニ講義」もかねて、作品内容をネタばれにならない程度に紹介してコメントします。
評点は、ABCに+−を付けた、約7段階評価(総合評価)で、あくまでも目安です。
田畑暁生「風嫌い」 B+
恋愛が成就しかけるところで、風のせいでそれが壊されるために、すっかり風嫌いになった姉を弟の視点から描いている。
着想秀逸。ただ、最初のトラブルがマンガ的、あとのが悲劇的で、前半と後半で読者の受ける印象がちがう。ショートショートの場合、どちらかに統一すべきで、評者の好みはユーモアに徹した方がいいと思う。
和田啓一郎「遠い風の記憶」 B+
風船手紙の話。20年前に学校から自分が飛ばした風船手紙が舞い降りてくるという設定がいい。これを受ける後段がちょっと性急。過去の同級生の事故現場に立ち合う必要はなく、過去の記憶の中で、意識のすれ違いが判明する方が、20年という年月を感じさせて余韻があるのではないかと思う。
近藤廣「ウインドバス」 B+
タイトルはコンビュータ管理されている会社の冷却用の風。社員が社長室の秘密を知ろうとする。
面白い設定だが、どちらかといえば短編SFのプロットだけの印象。とくに最後の「逆転」が10行ほどではものたりない。なお、これは拉致問題で話題の隣国のイメージと重なる。むろん書かれたのは「歴史的会談」の前であり、こうした時代に対する「嗅覚」も才能のひとつです。
深野なつみ「遠い日の約束」 B
純然たる民話仕立て。大木の下で将来を誓った男女の悲劇を、女性の悲鳴のような風の音に重ねている。
いい話で、こんな民話は実際にありそうだが、短い中に、村長、娘、子供と視点が変わりすぎ。アニメのシナリオならこれでいいが、ショートショートの場合は一視点に統一する方がいい。(民話の場合は「語り」の視点…作者が読者に語るスタイル)
長山伸一「風に吹かれてサイナラ」 B
これは「葉っぱのフレディ」の一族版パロディとでもいうもの。
ユーモア感覚はいい。会話もいい。もう少し「家族関係」がわかりやすいともっと面白くなるはず。それと「生死観」というか、疑似哲学も。
齋藤尚規「子宝」 B
これも風船手紙を受け取る設定。隣町の少年から危機を伝える手紙を若い主婦が拾う設定。
これは一種のミステリーか。合理的なオチがつくのだが、そうなると逆に、前半の不自然さというか、無理が気になる。なぜ警察に連絡しないのかとか、法律の問題とか。むろん枚数さえあればクリアできるところですが。
小熊徹「神隠し」 B
これも民話スタイル。天狗にさらわれた子供が村に恩返しをする。
視点の統一、語りのスタイルは模範的。
ただ、恩返しというパターンはちょっと平凡。
瀧澤敬子「不運ですか幸運ですか」 B+
天候に敏感で病的に臆病な少女が、結婚してから、夫のために、はじめて意を決して暴風雨の中に出ていく。
「風嫌い」と似た設定。語り口にも無理がなく、うまい作品です。
オチがちょっと極端かな。まだ一工夫の余地ありと思う。
冴島涼「或る風のリフレイン」 B+
風の音と不思議な圧迫感を覚えるたびにタイムスリップを起こす。少年時代の東尋坊、敗色濃厚な時代の特攻機の操縦席、そして現代の……。
SFとしての新味は弱いが、モノローグの描写はなかなかの力を感じさせる。
最後の場面はもう少し短い方がインパクトがあります。
吉岡真由「最後の風」 A
風をビン詰めにする老人の話。
発想が秀逸。ファンタジーであるから、瓶詰めにする「理屈」はいらないが、封じ込め方と、ビンを開けたときの描写に工夫があれば、文句なしの傑作になったはず。大げさにいえば、ボブ・ショウの描いた「スローガラス」に匹敵する設定になったかもしれない。
ラストもまだ工夫できると思うが、なによりもアイデアの良さを買う。
おだみのる「プレゼント」 B
闘病中の子供の窓辺に来たサンタクロースとプレゼントの約束をする。
いわゆる「ちょっといい話」で、その限りでは文句のつけようがない。
ただ、子供、病院、サンタと並ぶと、お話の雰囲気も読めてしまうところがあって、この作品も既定のイメージをはみ出すものではありません。
柳瀬寿康「不自然な風」 B+
最終選考作品中、唯一の本格SF。過去の戦争で荒れ果てた大地とドーム都市の中にある緑と風。
評者には大好きな設定である。それだけに無理している部分もわかる。感情をもつロボットを作るのと、植生を蘇らせるのはどちらが難しいか。人工知能は花鳥風月を愛でるか。色々な重要テーマが詰め込まれているが、ショートショートでは消化不良。短編に挑戦してほしい。
(オリバー『吹きわたる風』の巧妙な「換骨奪胎」かなと読み返したが、そして、もしそうなら高得点をつけるのだが、そうではないようだ)
水野博子「風車の日」 B+
風力発電の風車が回る丘で一人暮らしの初老の男。息子から届く孫の写真。静かな生活は、ある「人口政策」で支えられている……。
詩的情景を買うが、この「制度」自体には新味がない。風車との結びつけに一工夫ほしい。
山西里恵「風の便り」 B+
「風を食べる」という発想がいい。食べられる風を作る機械という「珍発明」パターン。
面白いのだが、色々な「味」にエスカレートせず、コントに終わっているのが惜しい。ここが「風のビン詰め」との差になった。
コントとショートショートの違いは、長くなるので省略しますが、この場合、「おふくろの味」とタイトルとのダジャレで終わっているところが弱いのです。
大倉直輝「風を買った帽子」 B
風を買って遠くへ飛んでいこうとする帽子のモノローグ。
擬人化はショートショートの重要技法で、このような挑戦は買います。
ただ一人称描写が徹底していません。この場合、帽子の視点での感覚を人間の感覚に徹底して「翻訳」すると面白いのです。
たとえば、頭から帽子が吹き飛ばされるところ。「一陣の風が吹いた。その瞬間、私は男の頭から空へと高く舞い上がった。男は「あっ」といって私の方を見上げた。」では平凡。「風が吹きつけた。ポマードでいつも蒸れたような腹のあたりに涼しいすきま風が流れ込み、つぎの瞬間、私の体は男の頭から自由になった。男の叫び声とともに手が伸びてくる。だが、その手は見る見る下方に遠ざかった」の方がマシでしょ。
和田毅「オヤジウイルス」 B
オヤジウィルスが空気感染するので風の日に出歩くのは危険である。
「オヤジ車両」や「オヤジ席」など、工夫はしてあるが、この種のドタバタとしてはエスカレート不足。オチも、これはコント。
ちょっと点が辛いのは、評者がオヤジであり、オバタリアン・ウィルスの方が怖いからか。
谷内洋「すかしっぺ」 B
不思議な風力発電装置が普及したために地球が危機に陥る。
面白いが(オチに関わるから詳述しませんが)タイトルが下品。
この「永久機関」にはパロディ的設定としても無理があります。
湖山一真「ウインディシティ」 B
終末の世界でアコースティック・ギターで最後の歌を歌う男。
一種の散文詩である。
うまいフレーズや表現が散見するが、設定がよくわからない。
全体にいえるのは、発想は面白いが表現技術がついていってない、ほんの少しの工夫でもっと良くなるという作品が目立ちました。これは技術の問題ですから、訓練で向上します。さし当たり、過去の名作を「楽しみ」としてでなく「分析的」に読むだけでもコツはつかめるはずです。
今回、吉岡真由「最後の風」のアイデアを評価して入賞としました。
あと、
田畑暁生「風嫌い」
和田啓一郎「遠い風の記憶」
近藤 廣 「ウインドバス」
瀧澤敬子 「不運ですか幸運ですか」
冴島 涼 「或る風のリフレイン」
この5作がほぼ同列で並ぶという印象です。
迷ったあげく、「風嫌い」のまとまりの良さ、展開のうまさを評価して佳作としました。