『ショートショート大賞』選評
『ショートショート大賞』選評
大阪シナリオ学校主宰の第1回ショートショート大賞選評。
出題は「タマゴ」
大賞 高木信介「マグリットの卵」
佳作 三枝 蝋「非常卵」
佳作 北沢兼行「卵国現代史」
全作品にコメントしたいところですが(実際に「パスカル短編文学賞」銓衡ではそうしましたが)、時間や発表の場との関係もあり、ベスト10についてコメントします。
「タマゴ」という出題に対して、どのような作品が寄せられるか。正面から卵をテーマとする作品、暗喩として使った作品、小道具として出してくる作品などを予想していましたが、色々なパターンがあり、銓衡に迷いながらも楽しませていただきました。
ただし、選考基準は「タマゴ」の使い方よりも、作品としてのレベルが第一です。差をつけるのが難しい場合に「タマゴ」の使い方が評価される、という順です。
十合ヒロシ「第二の生」
ゲノムに正面から挑んだ、堂々たるバイオSF。文章もきちんとしています。
ただ、これは中編SFのダイジェスト。tamagoというゲノム転換装置をメインに7、80枚の中編SFになる話です。
(原稿は横書きですが、小説は縦書きが原則です)
篠田佳余「ストレスのたまご」
よくまとまっています。が「たまご」にこだわりすぎて、テーマがちょっと散漫になりました。「たまごたちのグループ」を設定する必要はなく、会社でも普通の団体でもいい、競争の激しい組織で書いた方が、イヤミなエリートサラリーマンの姿が鮮明になります。「白玉」をタマゴのかたちにでもする程度で。あえてダブルミーニングにする必要はないと思います。
カジハラ啓伺「漫画家の卵」
この作品も「たまご」にこだわっていますが、寓話のパロディとしてはよく出来ています。ただ、鶏と卵の絵で売れるというのは説得力不足で、このあたりギャグでもいいから一工夫ほしいところ。
森林武文「目玉焼きには固すぎる」
タイトルからは想像もつかない不思議な話。イメージ優先で書かれていて、最後の場面は確かに奇妙な雰囲気。SF好きからいうと、ダイヤよりも固いタマゴは、もっと別の、社会を変えてしまうような利用法があるはず。ニワトリとタマゴの分離というのもそう。色々ちりばめてあるアイデアと奇妙なイメージ展開が一体になっていないところが惜しい。
安成美純「タマゴの科学」
アイデア抜群。マッドサイエンスもので、「世界をタマゴに封じ込める」というのはものすごく面白い。こうした大冗談はSFショートショートの本流で、ぼくの大好きなところでもあります。惜しむらくは、これが「クイズ」であることで、ここはやはり大まじめな顔でヨタを飛ばしてほしい。
ちなみに、赤瀬川原平氏の作品に「世界を封じ込めた缶詰」があります。これは現在発売中の「優柔不断術」に写真紹介されていますからぜひ見て下さい。
三枝 蝋「非常卵」
アイデア抜群。ただし、作者はこのアイデアのすばらしさに自覚がないのではないか。超光速通信の使い方は宇宙SFのポイントをうまく押さえていますし、展開も間違っていません。もう少しの肉付け(特にタマゴに関しての伏線が弱い)でさらによくなる作品。短編にすべき話です。
長谷川孝子「卵狂想曲」
これは堂々たる「たまご」テーマ作品。特売タマゴのゲット作戦だけで書ききったドタバタ。笑いました。狂想曲を狂騒と競争に重ねたセンスもいいです。この数倍の枚数で、もっと凄まじい争奪戦を読みたいところです。お嫁さんとおばあさんの役割分担などもっと書き込んでほしいし。アイデア勝負のショートショートの中にこういう作品が入ると目立ちます。
棚瀬銀彰「腐った洗浄卵」
アイデアは優。ちょっと恐ろしい卵です。……しかし、話はここから始まるのではありませんか。展開の仕方によっては、「おーい でてこーい」級にもなりうる設定です。
高木信介「マグリットの卵」
アイデア、イメージともによく、文章もうまく、よくまとまっています。しいていうなら話がちょっと暗い。逆にいうと、ホラーとかサイコスリラーとしては残酷さが足りないともいえます。これは、タマコが作者本来の資質を引き出す題としては似合わなかったのかもしれません。
北沢兼行「卵国現代史」
タイトル秀逸。卵で書かれた架空現代史で、筆力十分、ユーモア感覚も買います。結末部分がちょっと弱い。破滅かエスカレーションかは予想がつきますから、いまひとつヒネリがほしい。
……と、長所短所を並べましたが、全部を残せないので、ここからは減点法。
アイデアで「非常卵」
完成度で「マグリットの卵」「卵国現代史」
ユニークさで「卵狂想曲」
「マグリットの卵」と「卵国現代史」で相当悩みます。選者の好みは「現代史」ですが、これは短編にもなりうる話。完成度の高さと作者の資質に期待して「マグリットの卵」を大賞とします。しかし、僅差です。 佳作もう一編は、数少ない宇宙SFという点も買って「非常卵」。
ユニークさでは「卵狂想曲」が異彩を放っておりますが、うーん、惜しくも獲り損なったというところです。
多彩なタマゴ……幾つかが孵化して大きく成長することを期待しております。
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