立川談春『赤めだか』(扶桑社)/吉川潮『月亭可朝のナニワ博打八景』(竹書房)
落語関係の本を2冊。
立川談春『赤めだか』(扶桑社)
おれは立川談春の落語を聞いたことがない。テレビは早朝のニュース以外は見ることもなく、寄席番組も例外ではない。したがって、談春については、落語より文章が先ということになった。
(山下洋輔に関して、ライブよりも文章でファンになったという人が多いが、談春ファンもそのタイプが増えるかな。)
この本を手にしたのも、著者が談志の弟子ということで、「昭和史最大の謎」落語協会分裂騒動の時に談志がどう動いたのか、弟子の目から見た談志の行動が知りたかったからである。
が、談春が入門したのは昭和59年で、円生の死後4年である。事件に関する記述は皆無。昭和も遠くなりにけり。
ただし、期待はいい方向に裏切られた。噺家の成長物語としてきわめて上質だし、一門の生態描写も面白い。そして何よりも新世代の落語論になっていることがいい。
談志の行動が多少デフォルメしてあるのかなと思わぬでもなしだったのが……おれにとっていちばん面白かったのが、最後の方、米朝師匠に「除夜の雪」の稽古をつけてもらうくだり、米朝師匠、小米朝さん(今は米團治師匠)、小佐田定雄氏など知った顔ぶれが登場、「骨折騒動」などもあって、このあたりの人物描写が見事で、それによって談志描写のリアリティを実感したのであった。
対称的なのが次の本だ。
こっちの主人公はよう知ってまっせ。むろん個人的面識は皆無だけど。
吉川潮『月亭可朝のナニワ博打八景』(竹書房)
「赤めだか」が成長の物語なら、こちらは破滅の物語か。
作者は最初「博打八景可朝の戯れ」というタイトルをつけたかったのではなかろうか。
これは「博打」を主軸とする可朝の評伝ともいえる。
プロローグ、野球賭博で取り調べる場面。
可朝「野球賭博はなんであきまへんのや」
刑事「暴力団の資金源になっとるからに決まってるやろ」
可朝「それやったら大丈夫ですわ。わし、トータルで勝ってますさかい、暴力団の資金を吸い上げてるいうことですわ。お上から表彰状もろうてもええんとちゃいまっか」
刑事「アホか!」
これがほんの序の口。本当に、ほんの序の口。
出てくる出てくる、花月の楽屋から競馬場、祇園のお茶屋から東映の撮影所まで、息詰まる勝負(お茶屋に登場する「プロ」や鶴田浩二との勝負など、阿佐田哲也作品に並ぶ迫力である)が展開される。
参院選も「博打として」出たのだから凄い。
野球賭博で、高速道路でクルマを路肩に寄せてバンザイした話は有名だが、これはアクビが誇張して伝えられた事情など、描写が細部まで行き届いている。
本書は著者校まで終わって発売待ちのところに、可朝のストーカ行為による逮捕が起こったために、「便乗出版」の誤解を避けるために発売が延期されたという。したがって「あとがき」にこの事件についても触れてある。画竜点睛というべきか。
(2008.10.7)
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